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□海を浴びる
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空から雨粒が落ちる
海に降った雨は何になるんだろうか?
溶けて海になるのだろうか?
「名無し…、あんまり雨にあたると体に悪いぜ。」
名無しは雨が好きだ。
雨が降るたびに誰もいない甲板に立っては雨にあたる。
夏でも冬でも季節も気温も関係がないのでよく風邪をひく。
「あら?元親も水浴び?」
そう言って名無しが髪をかきあげた。
髪の毛から滴り落ちた水が名無しの手を濡らす。
「違げぇよ、お前さんを連れ戻しに来たんだ。」
「元親は相変わらず心配性ね。」
恵みの雨を浴びる紫陽花のように名無しは笑った。
その笑顔があまりにも儚くて俺は思わず名無しを抱きしめる。
抱きしめた体は冷たかった。
「元親?」
「…いつも、不安になるんだ。」
雨が海に溶けるように名無しも溶けて消えてしまいそうで、つい手を伸ばしてしまう。
そんなこと有るはずもないのに。
「ねぇ、知ってる?」
濡れた手が震える背中を抱きしめ返す。
静かに降る雨の中、名無しの声だけがやけにはっきりと聴こえた。
「雨は海に溶けて、そしてまた海が雨になるの。だから雨が消えることはないわ。」
そうか、お前は海を浴びていたんだな…
「こうやって海を浴びるのも悪かねぇな。」
二人で浴びる海は何故か暖かい気がした
end