Syugo-kyara!

□squabble
1ページ/6ページ






嫌な予感がした。

あと一限で今日の授業がようやく終わろうとしている。
日がな一日、何事もなく平和に過ごせると、
思っていた。






「歴史の教科書忘れちゃった…」



鞄や机の中を何度探しても、歴史の教科書が見当たらない。
体が忘れ物に気がついた時の、焦りとヒヤッとした感覚を覚えた。


「えっホント?じゃあアタシの見せてあげよっか?」


前の席に座るあむが言うが、前後では一緒に教科書を覗くと言うのは難しい。
それに私はなにより、あむに迷惑をかけたくない。


「ううん、大丈夫よ。なぎひこに借りて来るから。」


なぎひこは別のクラスなので、授業が被ることはない。
私は早足でなぎひこのクラスへ向かった。



「ちょっと。」


入口に一番近い席に座る男子生徒に、適当に声をかける。


「ん?あぁ、何?」


「なぎひこいるかしら。」


「藤咲は…あそこだよ。」


教室を軽く見回した男子生徒は、なぎひこの席を見つけ指差す。

するとそこには、複数名の女子生徒が集まっていた。


「女子が群がってるだけじゃない。」


「いや、その中心にいるのが藤咲だよ。
あいつモテるからさ、ああやって女子が集り
やすいんだよ。」


よくよく見てみたら一つの机を囲む女子の中心には、艶のある深い紫色。

表情はよく見えないが、女子はみんな楽しそうにきゃあきゃあ言っている。


「・・・・・・へぇ。そう。」


ありがと、と男子生徒に軽く礼を言うと、
私は教室をあとにしようとする。


モテるから女子が集りやすい。
なにそれ。ぜんっぜんおもしろくないわ。


そう思っていたところで、丁度教室に入ろうとする唯世に会った。


「あっ、真城さん。」


「・・・唯世。そうだ、歴史の教科書を忘れちゃったの。貸してくれないかしら?」


「もちろん。ちょっと待ってて。」


快く教科書を貸してくれた唯世に、感謝して教室に戻った。
唯世はなんだか不思議そうな顔をしていたが、
授業が始まりそうだったのであえて聞きことはなかった。





「あっ、おかえり」


自分の席に戻ると、あむに唯世の教科書を差し出した。


「あむ、教科書貸して。」


「はい?え?あれ?なんで唯世くんの?」


あむの目は点になっている。当然意味が分からないだろう。

なぎひこの教科書を借りに言った私が、
唯世のものを持って帰って来て、
その教科書は今、自分に差し出しているのだから。

ただ私は、唯世の教科書は彼女である、あむが使うべきだと思ったのだ。


まもなく始まった歴史の授業は、私があむの教科書を借り、
あむはかわりに唯世のものを使うという、少々おかしな状況だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ