Syugo-kyara!

□物語の始まり
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だいぶ暖かくなってきた3月の下旬ごろ。
広い野原を、囲むように植えられた
さくらの木が、ちらちらと花をつけはじめる。
遠くには、きれいな芝生を元気に駆け回る子供達が見える。

私は、野原の中心に一本だけ立っている、
大きな桜の木に体育座りで座っていた。

普段はこんなところには来ないけれど、
今日は桜が咲いているかが
気になって来てみた。


今年も…同じだ。


実は何年か前から、毎年この日になると
ここに来るようになった。
でも毎年、ここの近くにある植物園の
桃はもう終わっているし、
この公園の桜はまだ咲いていない。

でもこの日になるといつも心寂しくなって、
咲いていないのがわかっていても、ここに来てしまう。

いつも同じ。
植物園に桃を見に行って、この公園に桜を見に来る。
しかしどちらも咲いていないから、
結局この寂しい気持ちは変わらないのだ。



初めてここに来たのは3年前…

私が中学生になろうとしていたころ。
丁度同じころに、パパとママは離婚した。
いつも喧嘩ばかりで、二人とも笑ってくれなかった。
本当はこの公園にも、家族3人でお花見にくるつもりだったのだ。

だから初めてここに来たときも、
私は寂しかった。
今以上にとっても。
それに桜も咲いていなかった。

でもそんな風に落ち込んでいた私に、
いつも意地悪だった男の子が優しくしてくれた。
その時もちょっとは意地悪だったけれど。

彼は私に、私のパパとママは二人の物語の中で、
出会って、恋をして、お別れした。
これは、パパとママだけの物語だから、
私には変えられないけど、
"私には、私だけの物語がある"と教えてくれた。
そして彼は、"私の物語の登場人物になりたい"と言った。

私は、自分の物語で大好きな人たちと、
たくさん笑いたい。
毎日笑って、幸せになりたい。

私の物語の登場人物はみんな、笑っていないといやだ。
それに、私自身をたくさん笑わせてほしい。

しかしパパもママも、その男の子さえも私のもとから離れて行ってしまった。
自分の夢のために、彼は今もどこかで、頑張っているのだ。

きゅうっと胸が痛くなった。
いつも彼のことを考えると切なくなるから、
あまり考えないようにしている。

昔は、彼のことがきらいだったのに。

私と彼はいつも、わたしの親友…あむの取り合いっこをしていた。
わたしはいつも本気だったけれど、
でも彼の方はふざけていただけみたいだった。

それにあむがいない二人きりのときは、
私にとってもやさしくて、私は彼のことを"うそつきの悪い男"
なんて言ったけど、本当はそんなことなくて。

彼は、私にきらわれていると
思っているみたいだけど、
私と彼の距離はだんだんと近づいていて、
私は彼のことが、
きらいではなくなっていた。


そしていつからか、彼の…
―なぎひこの…笑顔が一番すきになっていた―
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