Syugo-kyara!

□甘いTrick
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「なぎひこ、トリックオアトリート」


いつもと変わらぬ愛想のない表情で、僕にお菓子をねだるりまちゃん。

今日は10月末にある恒例の行事の日。
もともと日本の行事じゃないが、最近は巷でも
カボチャのアクセサリーやお菓子、イベントなどが目立ってくるし、
何よりこの日になるといつもお決まりの言葉でねだられるものだから、
小さな飴やチョコレートくらいは用意する習慣が身についてしまった僕。

それにここで無いなんて言うと、悪戯より何より彼女の機嫌が悪くなる。
そして機嫌が悪くなるとしばらく口を聞いてもらえなくなるから、
ここはしっかり押さえておかなければならない。


「はいはい。えーっと…」


今日のおやつは手作りのパンプキンパイ。
いつもに増して豪華なお菓子を用意してきた。

過去になでしことしてガーディアンがある日は、
ブラウニーやらスコーンやらを作っていたこともあり、
女の子ウケするお菓子は大体作れる。

最近のお菓子作りは専ら、りまちゃんのためだけど。


「あ…れ…?」


お菓子を渡そうと探していた僕はある異変に気付く。
今朝、カバンに入れてきたはずのパンプキンパイが見当たらない。
昼休み見たときはちゃんとあったし、清掃活動後もあったはずだ。


「お菓子がない…。」


机の中を探してみてもやっぱり見当たらない。


「お菓子ってなんなの?」


じれったそうにりまちゃんが言う。


「カボチャのパイだよ。昨日作ったんだ。」


すると何か思い当たったようにりまちゃんが、「あぁ」と言った。


「それならさっき空海が、なぎひこのいない間に、なぎひこのカバンからとっていったわよ。」


「えぇっ?!」


衝撃的な真実をりまちゃんが告げる。
人のカバンを漁ることさえ大事なのに、ましてや盗み取って行くなんて、
僕は相馬くんの勝手さに呆れることしかできなかった。


「えーっと相馬くんはいつ来たの?」


「終学活が終わってすぐよ。その頃あなた荷物運びの仕事してたじゃない。」


そうだった。僕は放課後先生に呼ばれていて、
理科の資料を運ぶのを手伝っていたんだっけ。

過ぎてしまったことは、いまさらあれこれ言っても仕方がない。


けど…。


「もしかして…」


りまちゃんの表情が曇り始める。


「そうなんだよ。あれはりまちゃんにあげるために作った物なのに…。」


「じゃあ…お菓子ないの…?」


ふるふるとりまちゃんの肩が震え始める。
「あぁやばいな」と僕はとっさに感じた。


「り、りまちゃん」


やんわりと困ったように笑うことしかできない。


「…なぎひこのお菓子…食べたかった…。とっても…おいしいのに…。」


目には涙ではなく、怒りが浮かんでいた。
りまちゃんの身体はカタカタと震え、恨みのこもったオーラが溢れ出ている。


「ゆるさないわっ!相馬空海っ…なぎひこは私だけのパティシエなのに!」


あぁ食べ物のうらみって恐ろしいな、と僕はつくづく感じた。
しかしりまちゃんから、僕の作ったお菓子は美味しいと、
言ってもらえたのはとても喜ばしいことだ。


「なぎひこ」

「なに?りまちゃん」

「お菓子がないならイタズラするわよ」


じろりとりまちゃんがするどい視線をこちらに向けてくる。


「しょうがないなぁ…。」


結果的にお菓子は僕の手元にないわけだから、イタズラされても仕方がないのだが…。
一体…何をするつもりだろう。
顔に落書きでもするのだろうか。それだけはやめてほしいな。

りまちゃんの頬は薄らと赤くなり、
視線はちらちらと落ち着きなく動いている。


ふわっと爽やかな髪の香りが舞った刹那、
僕の頬はやわらかいようなあたたかいような感覚を覚える。
身体が震えるようなその感覚に僕の思考は停止する。


「・・・。」


僕は反射的にその小さな体を抱き寄せた。
普段は素直じゃないけれど、僕が腕で優しく包み込んであげると
素直に体を預けてくれるりまちゃん。


「なぎひこが本当に、私だけのパティシエになるように、ま、魔法…かけたのよ。」


「りまちゃん…」


ぷるぷると震え、恥ずかしそうに言った彼女が、
どうしようもないくらい愛おしく感じる。

僕は、パティシエだけじゃなくて、僕の全てをりまちゃんにあげるよ。


「今から、うちに来ない?お菓子作ってあげるよ。」


甘い感覚に麻痺していた脳はようやく解放され、
僕はいつものようにりまちゃんに笑いかけた。


「…いいの?」

「もちろんだよ」


りまちゃんの喜ぶ顔が見たいし、少しでも
長く一緒にいたいんだ。



それに僕は


―君だけのパティシエだから―



end


お菓子がないなら、なぎひこを食べればいいじゃない。(マリーアントワネットより引用)

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