Syugo-kyara!

□Sweet Time
1ページ/1ページ






「なぎひこ、プリンが食べたいわ。」


この一言によってなぎひこは、徒歩5分の所にあるケーキ屋まで使わせられることになる。



「はい。買ってきましたよお嬢さま。」


なぎひこの表情はいつもに比べて穏やかさに欠けていて、明らかに不満げな様子が見て取れる。

いつもは誰に対しても笑顔で優しく、自分がどんなに我慢していても、
人に不快を与えるような表情や態度は一切しない彼が、
自分の意思で唯一りまにだけ感情をあらわにしているのだった。


「ありがと。ちょうだい。」

しかしりまはそんななぎひこに気付く様子はなく、
買ってきてもらったプリンを要求する。

するとなぎひこはニコッと笑った。
それもまた他人にはしない、りまだけに見せる表情である。

ただの笑みではない。
なぎひこがりまに対してイタズラやからかいを思いついた時に見せる、裏がありそうな黒い笑み。


「…なにしてるのよ。」


なぎひこはりまにプリンを渡さず、透明なプラスチックの蓋を外した。
そしてプリンのツヤツヤした平らな表面を、小さなプラスチックのスプーンで掬って
りまの口元に運んだ。


「はい、あーんして?」

「そんなことするわけないじゃない。」


なぎひこのふざけた行動を軽くあしらうりま。
しかしなぎひこもこれくらいでは引き下がらない。


「いらないの?じゃあ僕が食べちゃおうかな。」

「ダメッ」


プリンを食べられるのがそんなに嫌だったのか、なぎひこの言葉が終わるか否か即座に答える。


「もう…じゃあはい、あーん」


するとりまは観念したのか納得のいかない顔でなぎひこに答えた。


「…あ、あーん」


恥じらった様子も混ぜつつパクッとプリンに食らいつく。
口に含むと甘いバニラの味が広がった。
そして彼女の可愛らしい行動に思わずなぎひこの頬が緩む。


「美味しい?」

「おいしい。」

「じゃあもう一口。」

「もういいわよ!」


さらに調子に乗るなぎひこに、さっきのが相当恥ずかしかったのか顔を赤くして全否定するりま。


「ダメだよ食べ物を粗末にしちゃ。」


やけに真面目な顔でそう言ったかと思うと、なぎひこはりまの頬に唇で触れた。


「ひゃっ!」


無防備だったために驚き、自分でも恥ずかしさで真っ赤になるような
声をあげてしまったりまは、反射的に自分の口を手で塞いだ。


「ちゃんと食べないと、お仕置きしちゃうよ…?」


耳元でいつもより低いトーンの声で甘く囁くなぎひこに、
りまの心は高鳴り、ドキドキという音さえ聞こえてきそうだ。


「…いじわる」


赤み掛かった頬を膨らまし、ふて腐れたのか視線を落とし俯いている。


「なぎひこっていじわる。」


「それは、あの…。りまちゃんが可愛いから…。」


自分は可愛くなんかない。可愛いと思われるのはいやだ。
りまはずっとそう思っていた。今もまだ素直に喜べないけれど…


「…かわいくないわよ。」


なぎひこから可愛いと言われるのはそんなにいやではないような気もしていた。


「プリン…ちょうだい」


そういうとなぎひこは、優しく微笑んで言うのだ。


「ん、いいよ。あーん」

「ほんと、飽きないわね。」


いつまでも楽しそうななぎひこに呆れつつ、プリンに食らいついた。


「ふふっ…可愛いなぁ」

「ばか」




こうして小さな瓶がからっぽになるまで二人仲良くプリンを平らげたのだった。



end

もっと心躍るような、黒いなぎひこが書きたい。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ