novel

□SUPER DUPER GALAXY
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今までに、こんなに目覚めの悪い朝を迎えたことはあるだろうか。
二日酔いでもない心のモヤ。
あの男は誰なんだろう。
mayaとはどういう関係なんだろうか。
この1ヶ月間で、mayaの周りに何が起こったんだろう。
・・・気持ちに変化があったのだろうか。
「気になる・・・。」
一度気になったら抑えられない性。
Aijiは携帯を手に取り、魅惑のアドレスを選ぶ。
電子音。
響く午前十時。
(未だ起きてないかな・・・?)
彼の生活リズムを把握しているAijiの不覚。
睡眠の妨げをしてしまってはいけない。
慌てて切ろうとした刹那・・・
『はい。』
「!・・・maya?」
気だるそうな声が耳朶に響く。
「久し振り。なかなか連絡取れなくてゴメン。」
『別に・・・大丈夫ですけど。』
少し照れた様な声音に、Aijiは安心した。
(良かった・・・いつものmayaだ・・・。)
『用件は何ですか?』
「あ、声が聞きたかったっていうのもあるけど。・・・mayaさ、昨日街にいた? 男の人と。」
『え・・・。』
声音が急変した。
戸惑い、それを表している様だ。
「珍しいね、mayaが。誰かとい・・・」
『もう、いいじゃないですか・・・っ。いつまでも子供みたいに扱わないで下さい。もう、子供じゃないんで。』
また急変。怒っている。
「ご、ごめん・・・っ。気になって。」
『・・・。』
mayaは黙り込んだ。
何かを考えている様な間だった。
『Aijiさんは・・・ワタシのこと・・・。』
「え?何?」
『・・・何でもないです。』
絞り出したような小さい声音、Aijiは必死で呼びかけた、声の主の名を。
「maya? maya? どうしたの?」
『・・・Aijiさん。Aijiさん宅にある、ワタシのもの全部、捨てちゃってもいいですよ。
否、もう捨てちゃって下さい。』
「え・・・。」
『今度から迎えも大丈夫です。あ、LM.Cは続けていくんで。・・・それじゃ。』
Aijiが引き留めるよりも早く、通話は途切れた。
プープープー・・・無機物な電子が無情に思えた。
「maya・・・?」
5分弱のやりとりで事が済む内容では到底ない。
だって、この内容は一般的にいう、別れ話なのだから。

(そもそも、付き合い始めたのも俺からだしな・・・)
当初を思い出した。
未だ、LM.Cを立ち上げて間もない頃。

『俺さ、mayaのこと好きなんだけど。』
『へぇ。ワタシもですよ。』
即答された。
『や・・・、お前、真剣に考えてないだろ。』
『じゃあ、ちょっと真剣に考えてみます。』
間が空いた。
mayaはあごに手を当て、少しうつむく。
(あ・・・考えてる)
チュッパチャップスの棒を弄びながらも、顔は長考の最中だった。
やがて結論の出た彼の頬は朱に染まっていた。
表情が照れくさそうで愛らしい・・・・・・とは、Aijiの過剰な表現だ。
「マジですか。Aijiさん。」
「うん。そうみたい。」
「・・・はぁ。そうなんですか。・・・まぁ、いいですけど。」
「は?マジで?」
あっさりと成就してしまった恋。
あまりにも唐突な出来事に、喜びを素直に感じられない。
「なに、それ。本当にいいの?」
「はい。ワタシも前から先輩のこと好きでしたから。」
「はぁ・・・。」
相変わらず無表情はくずさない。
その日から二人の関係の意味が変わった。
日々や、日常こそ変わらないものの、気持ち、心持ちが180度変わった。
互いの気持ちが分かっても、それ以上はおあずけをくらっているAijiだった。

(maya、気ぃ使ってたのかもな・・・。)
不安は悪い既成事実を生んだ。
美しき恋の日々は幻に思えた。
仕事中、プライベート。
オフ、デート、二人でいる時、一人で想っている時、そばに感じている時・・・・・・。
過去の自分は、どれほど幸せ者だったか。
今更、嫉妬して後悔する。
もっと大切に、もっと深く想えていたらよかったのに。
もっと大切に、もっと深く想いあえていたら、どんなに良かったことだろうか。
とて、それはAijiだけの問題じゃなくて、mayaも相応に想っていないと成立しない。
それだも、努力はAijiも出来たはずだ。
(maya・・・)
もう一度、振り向いて。

一方、mayaはいつまでも携帯の画面を見つめていた。
気が緩めば、涙だって流れそうだった。
唇を噛んで耐える。
(Aijiさん・・・)
久々に聞いた声がいつまでも胸に響く。
嬉しかった。
もっと話していたかった。
でも、それじゃいけないと思った。
Aijiが好きだ。
たとえ、世界一の素晴らしい人間が現れて優しくされたとしても、Aijiを選んでしまうだろう。
だから、駄目なのだ。
だから、いけない。
その想いが根を張ってしまった今、それは束縛というものではないだろうか。
失ってしまうくらいなら、いっそ距離を置いて繋ぎ留めておける方が良い。
・・・それは分かっているのに。
心が求めてしまう。
恋心のどこかで、さみしいと叫んでいる。
会いたいと嘆いている。
「・・・。」
耐えられなくなったmayaは、携帯電話の電源を切ろうとした。
・・・その瞬間に、一件の着信があった。
そのアドレスに鼓動は小さく打つ。
『もしもし? maya君、起きてる?』
「あ・・・。」
揺らぐ、恋心。






 
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