novel
□Life 2Die
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「ねぇねぇ、どこ行くの?」
出発してすぐ、武瑠は後部座席から身を乗り出して、運転席に聞く。
『こらこら・・・。』と、眉をひそめた運転手は、無論さっきの男性だ。
「分からない。まずは、捕まらないように、逃げるだけ。」
「ねぇ、何て呼んだらいい?」
「名前は、MITSURUだよ。」
「み、つ、る・・・。じゃあ、みっちゃんだ!」
『みっちゃん』新しい響きだった。
照れくさいが、彼がそう呼びたいなら・・・、と了承した。
「ねぇ、助手席いい?」
「あー・・・、駄目。目立つから。」
「ちぇっ・・・。あ、じゃあ、これならいい?」
鞄のなかをゴゾゴゾと探って、武瑠が取り出したのは、レンズの入っていない、いわゆる伊達メガネだった。
デザインフレームで、下半分と上半分では、色が異なる。
「これ掛けたら、隣いい?」
「え?」
バックミラーで彼の姿を確認した。
「・・・うん、いいかな。」
「やったぁ!」
MITSURUの許可を得て、ピョンッと助手席に飛び移った武瑠。
流れていく景色を眩しそうに見ていた。
(楽しそうだな・・・。)
この少年は怖じ気ついていないのだろうか。
自ら攫ってくれと、頼みこむような彼だから、もの凄い神経の持ち主なのだろう。
MITSURUには、むしろ武瑠自体が眩しかった。
「俺、旅行好きなんだよね。」
「旅行なんていう旅じゃないよ。」
『きっと、君にとって、凄く過酷な旅だよ。』という、言葉を飲んだ。
「大丈夫、分かってる。ねぇ、銀行寄ってくれない?」
そこで、武は数百万円を引き出して、MITSURUに差し出す。
「これ、預かってて。」
「え?」
『もう、引き出せなくなってからじゃ、遅いじゃん?』少年は本気そうな目をしていた。
「どうして、君は家に帰りたくないの?」
「・・・反抗期だよ。」
「そうか・・・。皆、そういうのあるよね。」
「皆と俺のは、違うよ〜。」
少年はどこか寂しそうに笑った。
「でもね、俺。ちゃんと計画的なんだよ?着替えとか、歯ブラシとか、いるもん持ってきてるからね!」
「え?何で?」
「だって、昨日まで学校行事の旅行だったんだもん。」
「ええっ!?」
引き返そうとするMITSURUを武瑠は全力でとめた。
「ヤダっ!みっちゃんな、ユーカイされるって決めたもん!」
「親御さんが旅行の思い出話とか待ってるよ!ていうか、武瑠はしばらく逢ってなくて寂しくないの?」
「・・・寂しくなんかない。」
ふと見ると、少年の目尻に涙が浮かんでいた。
「誰も俺の帰りを待っていない。」