novel

□sweeToxic
10ページ/18ページ

「Chiyu君、上手いね!」
「いやぁ〜・・・、そんなことないですわ。」
はにかんで謙遜するChiyuを、shinpeiは愛おしそうに見つめる。
そんな2人の様子を知らない1人が立ち上がった。
「俺、ちょっとトイレ・・・」
そうすると、何人かも立ち上がり、共にトイレに行ってしまう。
「あ、私ちょっと電話が・・・。」
「私も着信が・・・。」
そうこうしているうちに、その部屋にはChiyuとshinpeiだけになってしまった。
そして、ドリンク達は到着する。
「えっと・・・。これがぺーさんのやな。」
「うぅ・・・!」
Chiyuが渡してくれたのは大きなグラスで、並々と色鮮やかなお酒が注がれている。
「どうしよ・・・、ちょっと飲みきれないかも。」
「ほんま?大丈夫?」
「ねぇ、Chiyu君。ちょっと手伝ってくれない?」
今度は、特に計算でもなくて、自然に口から出たお願いだった。
「え?あーうん・・・、ええよ。」
グラスを受け取ったChiyuは、一口飲んでから、shinpeiに返した。
同じように、一口すすってみる。
美味しい。
「・・・って、あ・・・。間接キスになっちゃった・・・!?」
ハッと気が付いて、つぶやくと、Chiyuがshinpeiを見つめていた。
「ち・・・Chiyu君?」
「ぺーさん、こんなんキスって言わないで。」
「あ・・・っ ちょ・・・っ!?」
手からグラスを奪った彼は、特に怒った様子でもないが、それを少し乱暴にテーブルに置く。
手持ち無沙汰になったshinpeiが、何が何やら分かっていないうちに、太くて長い指が、あごをとらえた。
彼に上を向かされて、見つめ合う。
「本当のキスは、こう。」
「ん・・・っ」
迫ってきた唇が重なった瞬間に、ついshinpeiは瞳を閉じた。
あたたかくて、柔らかい感触にうっとりする。
「んー・・・。」
息が苦しくなっても、お互いくっついたままの唇は、離れない。
2人共が上手く呼吸出来るように、少しずつずらして、口付け続ける。
(そろそろ・・・、誰か帰ってきちゃう・・・!)
それを合図するように、Chiyuの手首をつかんだ。
「・・・・・・。」
ゆっくり、惜しむように離れた唇に残った微熱。
(キス・・・しちゃった。)
心境に余裕がないのはChiyuも同じのようで、目を丸く見開いて、shinpeiを真っ直ぐに見つめていた。
そこに、帰ってくる人達。
2人は慌てて元々のように座り直す。
初めてのキスは、お酒の甘い味がした。


『キ・・・、キスしたの!?』
「う、うん・・・!でも、多分・・・だけど。」
『多分って何。』
masatoは受話器の奥で笑っているが、shinpeiの心は決して穏やかではなかった。
『あの人、案外大胆なんだねぇ。』
「うん・・・、俺もビックリした。」
あの時の心拍数のまま、いつまでも鼓動が激しく暴れて、抑えられない。
帰宅してすぐ、masatoに状況報告した理由は、自身でもよく分からない衝動だった。
とりあえず、訳の分からない緊張を、誰かに話すことによって落ち着かせるよう試みていた。
・・・しかし、かえって逆効果のようだが。
『じゃあさ・・・、次は告白だね!』
「ええ!? まだ早いよ!」
『何言ってんの、今でしょ!』
ラブロマンチスト、masatoに圧倒され、shinpeiは言葉に詰まる。
しかし、自分自身でもそれは薄々感づいていた。
『キスしたってことは、相手のChiyuさんもぺーさんのこと嫌いじゃないはずだよ? うんん、むしろ、好きなんだと思う!』
「そんなこと、大袈裟だって・・・!」
『言ってみなくちゃ分かんないじゃない!・・・あ、yujiが寂しがってるから、またね!頑張ってね〜』
「あーッ!ちょっと待って!」
そんなことはむなしく、響いたのはプープーという、電子音だった。
仕方なく、終話ボタンを押す。
(告白、か・・・。)
shinpeiはそのまま、ケイタイ電話で「告白」「恋」と検索した。

休憩室で2人きりになるというのは、よくありそうだが、この日に限っては計画的に行われている。
「お疲れ様、Chiyu君・・・!」
「あ、ぺーさん!」
会社の中でも人気者のChiyuが1人になるのは結構珍しい。
だから、タイミングが重要になってくるのだ。
特に、今のような定時5時を過ぎた8時頃などは、絶好の時になる。
丁度Chiyuが残業をすると決めていた日だからこそ、2人きりになれたのだった。
無論、これも計算のうち。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ