novel

□sweeToxic
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「今日はぺーさんのお陰で、ええ服買えたわ〜。」
駅に向かう道、Chiyuは数個の紙袋をかかげた。
shinpeiも、いくつか紙袋を持っている。
選びあったりしていると、つい楽しくて、2人共買いすぎなのが否めなかった。
「俺の方こそ。」
「それに、まさかカップルに間違われるとは思わへんかったわ。」
「そ・・・そうだね・・・ッ!」
思わぬ話題に、shinpeiは頬を染める。
「Chiyu君・・・嫌だった?」
不安な色を帯びた瞳は、はからずとも上目使いになった。
「うんん・・・、そんなこと無かったで。」
「そっか〜・・・。うん、俺も。」
(すごい・・・、薬が効いてるのかな・・・!)
好意を感じる言い方に、shinpeiの口角がゆるむ。
「ほな・・・。それじゃ、また明日。」
「うん、じゃあね。」
各家が反対方向にあるから、駅で別れた。
帰宅して、メールをチェックすると、masatoから今日の成果を尋ねる内容のものが届いていた。
包み隠さず返信すると、すぐに返ってくる。
『ごはん食べに行ってないの!? っていうか、手は繋いだ!?』
図星のように言葉に困っていると、すかざず電話がかかってきた。
無論、masatoからだった。


その次の日からは多忙な日々がしばらく続いた。
部署の中の大きなプロジェクトの責任者にshinpei、副責任者にChiyuが任命されたからだ。
会社の行く先も左右するようなプロジェクトだから緊張していたが、内心ではChiyuといれることに対して浮かれている節もあった。
・・・のは、最初のうちだけで、だんだんとその忙しさから現実が見え始めていた。
(ダメだ・・・、Chiyu君と他愛もないような話すらしてない・・・。)
しかし、毎日ほぼ一緒に仕事が出来ている日々に不満は無かった。
とりあえず一段落着けて、shinpeiは休憩室で幸せに浸りながらも、うなだれていた。
買い物から約一週間が経った。
特に進展なし。
(まー、あともーちょっとで完成するし・・・。)
ぼーっとしていると、休憩室に誰か入ってくる。
その人と目が合い、shinpeiはハッと気付いた。
「ち、Chiyu君、お疲れ・・・!」
「あぁ、shinpe・・・ぺーさん!」
幸い、休憩室には2人きりで、今までずっと敬語だったしゃべり方がほどける。
「ぺーさんもお疲れ様。休めてないんちゃう?」
「うんん、大丈夫。Chiyu君の方は?すっごく頑張ってるよね。」
若くして才能のある彼は、すでに副責任者を務めている。
とて、それを自慢する訳ではなく、あくまで平静にしている人格に、人が集まってきている。
彼は社内で人気者だった。
「だって・・・、ぺーさんが頑張ってるから・・・!」
Chiyuが、頬を赤らめながらいう。
このプロジェクトは、shinpeiにとっても初めてといっていいくらいの大仕事で、いつもより力が入っていた。
それを、気付いてもらえて、とても嬉しくなる。
「そ、そうかな・・・。」
「うん・・・! 勉強させていただいてますわ。」
「ありがとう。」
Chiyuは自動販売機でコーヒーを買って、shinpeiの隣りに座った。
「その・・・ぺーさん。」
「何? どうしたの?」
「このプロジェクト終わったら、2人でパーッと打ち上げ行こうや?」
突然のお誘いに、目を見開く。
無論、即答で『いいね』とうなずいた。
「今から楽しみ!」
「俺も!店、どんなとこがええか、考えといてな?」
ふと、その時、Chiyuの携帯が鳴る。
その表示された名に、彼の表情がげんなりした。
「何や・・・え?分からん箇所があるやて?分かった、今戻るわ。」
電話を切った彼は、苦笑を向ける。
「あー・・・、戻らなアカンわ・・・。」
「俺も一緒に行くよ。」
「う〜ん・・・、なーんか、もうちょっと休みたかったわ〜。」
しぶしぶ立ち上がった彼の背中は、shinpeiよりもずっと広くて、たくましかった。
少し落ち込んでいるのか、丸くなっているところが可愛い。
「・・・・・・。」
静かに、立ち上がり、Chiyuに歩み寄る。
そして、その背中に身体をゆだねた。
「わッ!? ぺーさん!?」
「あともう少しで完成だから、最後まで一緒に頑張ってくれる?」
たばこと、香水と、汗の香りや、人のぬくもり。
たくましい背中に触れていると、彼に包まれたかのように感じる。
「そりゃあ・・・。俺は、ぺーさんのサポートを全力でするつもりやで。途中で投げ出すような奴に見える?」
「・・・うんん。」
shinpeiが姿勢を戻すと、彼は振り向く。
「待たせてるし・・・、行かないとね?」
「そうやな・・・。」
目が合わせられない2人は、はにかんだまま休憩室を後にした。
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