novel

□sweeToxic
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「ペーさん、やっと打ち上げ来れたなぁ。」
「うん、そうだね。」
「・・・でも。」
おもむろに立ち上がったChiyuは、人差し指を突き出す。
「なんで・・・お前等おんねん!」
「かんぱ−い!!」
Chiyuが指したのは・・・プロジェクトに携わった同僚や後輩達だった。
彼らは、Chiyuのことを無視して、それぞれグラスを高々と上げる。
「何やねん・・・、ほんまに・・・。」
「まぁ、いいじゃない。みんな、嬉しいんだよ。プロジェクトが無事完了して。」
(って、俺はちゃっかりChiyu君の隣りに座ってるし、話せるから、みんながいてもいいんだけどね、楽しいし・・・。)
よくある居酒屋で通された席は座敷で、無論Chiyuの隣りを死守した。
(そういえば、Chiyu君お酒強いのかな・・・?)
まず運ばれてきたのはドリンクで、グラスの数は人数分だか、アルコール飲料は人数分より一つ少ない。
「あれ、このジュースの人ー!」
「あ、はい、俺ー。」
shinpeiはこの日、アルコールを口にしないと決めていた。
(酔ったら、Chiyu君にアピール出来なくなっちゃいそう・・・、チャンスなのに。)
秘かに進展を狙っているshinpeiからすれば、自身の酔いは最大の敵、またChiyuの飲酒は格好の的だった。
人は酔うと扱い次第ではとても従順になるからだ。
(もう、毒の時点からだけど、俺って、卑怯者だよねえ・・・。)
「shinpeiさん、お疲れですか?浮かない顔ですけども。」
顔色の変らないChiyuが、表情を気にしてのぞきこんでくる。
その端正な顔立ちに鼓動が高鳴った。
今は人がいるから敬語だ。
「うんんっ! 違うよ・・・!」
ぶんぶん首を左右に振ると、彼は安心したように微笑んでくれる。
「ほんなら・・・、よかったですわ。」
「うん。心配かけてごめんね。」
いつでも優しい彼に心を打たれているのは今知った話ではないが、こうして実際に触れてみると、そのぬくもりに気持ちがこみ上げてくる。
Chiyuは、たくさんの人、例えば友人や後輩も皆含めて、こんな風に接しているのだろうか。
(・・・あの女の子にも?)
甘い毒に出逢った日の、駅のホームで見た光景を思い出した。
(・・・負けない。)
例えどんな面で負けていたとしても、shinpeiはChiyuに対する想いだけには、絶対的な自信を持っていた。


宴も、すでに終盤を迎えた。
(よし・・・、解散ってなったら、Chiyu君を2人だけの二次会に誘って・・・。)
「やっぱり、二次会の定番はカラオケっしょ〜! カラオケ行きません?」
(え、ちょっと待って!)
慌ててChiyuの顔色を見る。
彼は、確かこの前の飲み会では、二次会(何の因果かこの時もカラオケ)を断って帰っていた。
彼なら、後輩の提案を華麗にスルー・・・
「あぁ、ええんちゃう?」
(あー・・・、そうなるか・・・。)
してくれなかった。
「shinpeiさんも行きますよね?」
「う、うん。勿論・・・。」

今更己の無計画性を恨んでも仕方ない。
結局、酔っぱらいとshinpeiの一行は、誰も反対しなかったカラオケに来ている。
全員、アルコールをまず注文していたが、shinpeiは迷っていた。
(やっぱり、酔ってる人には、少しくらい酔って接した方がいいのかな・・・?)
「shinpeiさん、注文どうしますか?」
隣りに座ったChiyuが気を遣ってくれる。
「あーえっと・・・、じゃあこれで。」
指差したメニューは、アルコールのメニューだ。
「え、お酒ですか?」
「う、うん・・・。」
「shinpeiさんも飲むんですね。」
Chiyuの驚いた顔に、何て言えばいいか分からず、苦笑のような表情を浮かべた。
「そういえば、この前はChiyu君、カラオケ来なかったよね?」
「あ・・・、そ、そうでしたっけ・・・?」
「うん、Chiyu君のことだから、よく覚えてるよ。」
無論、声音も仕草も意識した、計算された台詞のような言葉である。
上目遣いも、肩に手をのせてボディータッチも、供に。
(あ・・・、効果あり?)
元々飲酒をしていたというのもあるが・・・、Chiyuが赤面した気がした。
そのまま笑ってくれる。
彼は小さな声で言った。
「ほんま?ありがとう。俺も、ぺーさんのことは、そうかもしれへん。」
タメ口だった。
礼儀正しい彼は、今まで会社の人物がいる前では、決してそんなことはなかったのに。
(どうしよう・・・、嬉しい・・・!)
「Chiyu、何か歌えよー!」
「は、俺?」
同僚が、マイクを渡した。
「お前この前パスだったから、歌ってないじゃん。shinpei先輩も、コイツの歌聴きたいですよね?」
話を振られて、意味深そうに微笑むと、同僚はほらー、と言う。
「先輩も聴きたいって、ほら!」
「マジか〜・・・。」
しかし、期待に応える男Chiyuは、機器で何か曲を打ちこみ、歌い出した。
(わあ・・・、Chiyu君の歌ってるとこ、初めて見た・・・!)
選んだ曲は少し古いが、そこも渋くてカッコいい。
歌声をうっとりしながら聴いているうちに、その曲が終わった。
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