novel

□生贄彼氏〜HAPPY 製造日〜
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あと何日かしたら、記念日がやってくる。
僕はその日の何ヵ月も前から色々な計画を立てていた。
全ては彼に喜んでもらう為なのだが、元々感情があるのかすら分からない彼を喜ばせるのは、すごく難しい。
僕の彼氏は、生贄彼氏。


「ねぇねぇ、まーたん。ちょっといい?」
「ん、なぁに?」
プリントとボールペンを持った彼が、ソファに座る僕の隣に座った。
彼はyuji。
もう付き合って3年になる。
僕はガッシリとしたyujiの肩に頭をのせた。
「それ、何?」
「んー、宿題的な。ぺーさんから出されてるんだ。まーたんに協力してもらわなきゃなんねぇんだけど、いい?」
「うん、大丈夫だよ。」
「よかった。じゃあ、俺の肌の色とか、今のまんまでいい?」
いきなりの質問に目を丸くする。
でも、yujiは真剣そうだったから僕も真剣に考えた。
「う〜ん、今のまんまがいいかな。」
「分かった。じゃあ、髪の色は?」
「ええ!?う〜ん…そうだな…。」
こんな調子で、yujiの体に対する質問は細かくずっと続いた。
僕が『yujiは今のままでいてほしい』と伝えると、それは止んだ。
「…いいの?」
「うん。今のままがいいな。」
「そっか…!! 分かった。」
それから彼は、プリントを一気に記入して、ソファの手すりに置いた。
僕の肩に手を置いて、抱き寄せてくれる。
「協力してくれてありがとう。」
「うんん。メンテナンスの資料?」
「まぁ、そんなとこ。あ、21日、俺メンテだから。」
「21日って…」
(yujiの誕生日じゃん…!)
メンテナンスがある日でも、彼は夕方には帰ってくる。
僕は、準備の時間に丁度いい、と思った。
「うん、分かった。じゃあ午前中はいないんだね。」
「そういうこと。えっと…ごめん。」
「ん、何が?」
悟られないように笑顔で返す。
一瞬キョトンとしたyujiの顔に罪悪感が否めないけど。
「い、いや。何でもない。」
「そーお?」
(ごめんね、yuji…。当日喜ばせるから!!)
「ねぇねぇ、そろそろ腹減らねぇ?」
時計を見ると、長針短針共真上を向いていた。
そろそろお昼の時間。
「そうだね。何食べたい?食べに行こうか。」
「んー…。まーたんが作ったものがいいな。」
彼は生贄彼氏。
すなわちアンドロイドな彼だけど味覚がある。
好き嫌いもアレルギーもあるらしい。
yujiは何でもよく食べてくれるけど、リアルな作りになってるんだな…ってつくづく思わせられる。
勿論、生贄彼氏はyujiだけじゃなくて、様々な個体がいる。
でも、一体一体特別で、同じ個体はいないらしい。
(だから、yujiはうちにいるyujiだけなんだよね…。)
「何が食べたい?」
「まーたんが作ったものなら何でも。」
「…もう!それが一番困るの分かってるくせに。」
僕はソファから立ち上がった。
「yujiが好きなもの、作るね。だから、座ってて。」
「おう。手伝えることあったら何でも言って。」

彼はボリュームのある肉料理が好きだ。
僕もお腹がすいてたこともあって、牛丼を作ることにした。
(好みが若いよね〜yujiって。)
人間は年を重ねるごとに味の好みが変わってくる。
肉類が好きだった人も、あっさりとした味を好むようになってくるのが一般的だろう。
(…yujiはアンドロイド。そういうところ、どうなのかな…。)
僕との味覚にズレが生じてきた時、僕はどうしようか。
(僕は人間、yujiは生贄彼氏…。)
そこは分からない。
でも、好きなのは変わらない。
「まぁ…大丈夫か。」
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