novel
□生贄彼氏、契約彼氏。
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ープロローグ
「yuji、美味しい?」
「うん。」
僕は目の前にいる青年、yujiに笑いかけた。
たまには外食しようという事で、予約したフレンチレストランは、夜景のすごく綺麗なところで。
僕も昔はよく行ったな・・・なんて考えたりして。
「yuji、今日はなんの日だー?」
「え・・・?」
相変わらず、無関心な反応。
「まーたんの誕生日・・・だっけ? 違うよね?」
「・・・違うから。」
あえて冷たく装うと、彼は慌てて真剣に考え始めた。
その様子が可笑しくて可愛くて、少し笑うと、ムスッとした視線とぶつかる。
「え、何? どうしたの?」
「まーたんが笑った。」
「yujiもだいぶ人間らしくなってきたね〜。」
改めて彼の顔を見ると、随分感情豊かになったな〜と、僕は目を細めた。
気付けば1年たっている。
2人が出会ったきっかけも、このレストランだ。
あの馬鹿との茶番があって・・・なぐさめてもらって・・・おしえてもらって・・・。
(うちに来たばっかりの頃は、全然笑ったりしなかったのに・・・)
定着しちゃった、かたくなな無表情に僕はひとめぼれした。
笑ったり怒ったり悲しむ表情に僕は恋をした。
僕の彼氏は生贄彼氏。
ー
それは、今から1年とちょっと前・・・。
「・・・は?」
雰囲気の良い有名なフレンチレストランで、僕は驚きや怒りをかくせずにいた。
それは、昨日まではあんなにラブラブだった彼氏から、突然呼び出された挙げ句、別れ話を切り出されたからだ。
シャチの調教師の彼、Chiyuは男前でスタイルも良いから、まぁモテてはいたんだけど・・・。
「本当にゴメンッ! や、まーたんが嫌いになった訳じゃないんやで?」
「ふぅん。僕以上の人なんだ。そのぺーさんとやらは。shinpei・・・って人だっけ?」
「はい・・・。」
長身の彼が、子犬の様に小さく見えた。
一応、人並みの罪悪感は持ち得ているらしい。
・・・その割には、フレンチレストランで手を打つなんて安すぎるけど。
「写メとかあるんでしょ? 見せなよ。」
「あ、はい・・・。」
ふぅん。まぁ可愛いんじゃない?
Chiyuの携帯の待ち受けは、黒髪の華奢な男性だった。
名前を聞いてなかったら、女の子と勘違いしていたかも知れない。
「何してる人なの?」
「システムエンジニア。」
「年上? 年下?」
「年上の人」
年上好みだったのか。
「でも、この人とChiyuだったら、身長差だいぶあるんじゃない?」
明らかに画面の中の人は僕よりも細身で幼い印象があった。
と、いうか・・・。
僕とタイプ正反対なんですけど・・・!
(美容師よりもSEって?)
「でも・・・。俺は本気やから。」
「本気ってことは・・・僕は遊ばれたってこと?」
「なっ!? んな訳ないやろ!? 本気やったって!」
「へぇ〜。」
ボーイが前菜のプレートを運んできた。
空気の読めない・・・。
いらだって、僕はガタンッと立ち上がった。
「まーたん!?」
「もういい。ごちそう様。」
自分の分のお金は置いていこうか迷ったけど、むかついていたから却下!
上着諸々を素早くまとめて行こうとした。
・・・ら、Chiyuに止められる。
「ちょっと待ってや! 料理だってきたばっかなんやし。機嫌直してや〜。」
「その愛しのぺーさんとやらを呼べばいーじゃん。」
お構いなしでそっけなく答えると、僕は再び歩きだす。
・・・けど、2、3歩のところでピタリと足を止めた。
どうせだったら、傷を残してやろう。
「Chiyuって本当 最っ低。」
僕は店を後にした。
ー
店から出てまっすぐに自宅には向かわず親友の家に行った。
売れっ子小説家、武瑠の名は売れだしたばかりだけど、そこそこに知名度は高い。
僕も友達として鼻が高かった。
連絡をいっさいせずに、直に訪ねる。
インターホンでロビーの自動ドアを開けてもらうと、マンション内に足を踏み入れた。
エレベーターで目的の階に一瞬で移動する。
ピンポーン・・・
『masato?』
「そう。いれて。」
『はいはい・・・』
少し間があいて、ガチャという音がして扉が開いた。
武瑠が、いつもどおりお洒落な格好をして玄関に立っていた。
苦笑を浮かべている親友は、何があったか勘付いているらしい。
「ところでmasato。本日は彼氏サマとデェトでは?」
「フッ・・・、別れてあげた。」
酒は禁止、と釘をさされて僕は言葉に詰まった。
よくお分かりで。
「masato、お酒飲むとめんどくさいんだもん。お腹空いてるでしょ? ごはん一緒に食べよ!」
と、彼特製のパスタが2つ運ばれてきた。
僕も大好き豆乳カルボナーラ。
「待ってました〜。」
普段、彼はあまり自炊はしないのだけども、執筆につまった時なんかは、気分転換(悪くいえば現実逃避)に料理に興じるらしい。
と、いうことは、今もスランプだな・・・?
「でさぁ、masato。別れてあげたってどういう事?」
「フッ・・・、読んで字の如く。」
負け惜しみにも聞こえるかも知れない。
・・・が、これが僕の心境。
「この前まで俺にノロけていたのに。」
「新しい人作ってた。」
「・・・先週デートしたって・・・。」
「途中、ちょくちょく電話やらメールやらしてたけどね。」
思い出すだけで、はらわたが煮えくりかえる。
・・・いつから、その「存在」があったんだろう。
「・・・。」
「まぁ、masatoなら、もっとイイ男ゲットできるって! ・・・あ、そーだ。いいのがあるよ。」
「ん?」
と言って、武瑠は1枚のチラシを僕に見せてきた。
美男と共に曲線を用いたフォントで、「生贄彼氏」と表記してある。
「なに、コレ?」
「『生贄彼氏』。知り合いのSEさんから聞いたんだけど、好みの彼氏が作れるらしいよ。アンドロイドだって。」
「へぇ〜。」
アンドロイドという語句は僕に馴染みはないけども、好みの彼氏が作れる点は興味深い。
きっと、自分だけを愛してくれて、文句も言わないし、デートもすっぽかさないし、勿論他の存在を使って別れ話を切り出すこともない・・・。
「・・・ちょっと良いカモ」
「でしょ?次の人見つかるまで、注文してみたら?」
「・・・・・・うん、そうだね。」
武瑠は、僕を励まそうとしてくれていることは分かる。
でも、僕の中には、どうしても忘れられない人がいた。
ー
『もしもし、こちら『生贄彼氏』お客様センターです』
「すいません、生贄彼氏を注文したいんですけど・・・。」
『かしこまりました。新規のご注文ですね?』
武瑠からちらしをもらって丸3日。
悩んだけど例の『生贄彼氏』を注文してみることにした僕は、チラシに書いてあった電話番号にかけてみた。
名前、電話番号、住所を登録した後、本題にはいる。
『何かご希望はありますか?』
「とにかく家事ができて、人当たりが良くて、行動派の、顔の整ってる人にして下さい!」
やっぱこれでしょ?
彼氏に求めるものといえば。
『いや・・・お客様。流石にそれは無理があるかと・・・。』
「じゃあ、もう何でも良いんで、とにかく素晴らしい人をお願いします。」
『はぁ・・・。』
これでOK。
今週中には届けてくれるらしい。
どんな彼氏が来るのかな・・・。