novel

□不完全Beautyfool Days
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― 足りないモノを探すから きっと夢(キミ)と出会えたんだ


―1,
(金だけ失ったのなら、まだ立ち上がれる兆しがあったハズだ。)
男は、夕暮れの灯りのついていない店内でただ茫然と立ちすくんでいた。
開店は午後6時。
現在時刻は5時だから早めに動かないといけないのに、何故か体が動かない。
未だ、スタッフが揃っていないからだろうか。
男は、男を含めた3人で小さなバーを経営している。
評判はそれなりで、地元の情報誌や、ローカル番組で紹介されたこともある。
しかし、内心では、そのスタッフ残り2人が永遠に来ないことはどこかで分かっていた。
また、他では、いつも通り来る気もしていた。
それでも、やはり来ないのは、ポツンとレジカウンターの上に置かれた、一枚の紙切れが物語っている。
『ごめんなさい。』
女の書体で書かれた文と、その下に2人分のサイン。
男がよく知っている名前だった。
一番に信頼して、一番距離の近かった、スタッフ兼親友と恋人だった。
その隣りのレジのひきだしは開いている。
空っぽだ。
祭りの後の店内はなんだか空虚で、無闇に飾られているのにむなしさを感じる。
前日は開店3周年の記念パーティーだったのだ。
常連を呼んで、それはにぎやかな宴だった。
その矢先の惨事。
男は、夕暮れの灯りのついていない店内でただ茫然と立ちすくんでいた。
(開店準備しなきゃな・・・)
今日は飾り付けを外す作業もある。
大忙しだ。
動くようになった体が機械的に奥からキャタツを持ってくる。
まずは、天井の飾りから外すことにした。
青く光るLEDをつり下げたのはいいアイディアだった。
天井の形に沿うように、まるで銀河のようだった昨晩。
そして、これを3人で飾った時を思い出した。
あーだこーだ試行錯誤しながら、あの時・・・


一方、その少し前、空の上の世界では険悪なムードが漂っていた。
「なんだよのむさんっ!急に呼び出して〜。」
のむさん、と呼ばれたのはメガネをかけた神だった。
バインダーのようなものを片手に、白い天衣を纏っている。
「武瑠は神失格です。」
「はぁ〜ッ!?なんでだよッ。不公平だッ」
武瑠と呼ばれた金髪も、また神だった。
しかし、位が低いように思える。
俊敏な動きでのむさんからバインダーを奪うと、自分にまつわる項目を見た。
他の神と比べると、レベルが明らかに違う。
武瑠はまさに下の下だ。
「サボリすぎ、神の仕事。」
「う〜・・・う〜・・・。」
「でも、それではあまりにもかわいそうなので、ワンチャンスあげます。」
「マジですか!!」
わらにもすがる思いでそのうまい話に喰いつくと、スッとバインダーを奪い返された。
「俺、何したらいいの?」
「簡単。地上に降りて、直接3日以内に5人の自殺志願者を説得して、更生させるだけです。できなければクビ。」
「そんなん無理に決まってんじゃんか!3日以内に5人って!」
「ベテランでも、なかなか出来ないし。まぁ頑張れ。」
その言葉を聞いて、武瑠は全ての意味を悟った。
(ほほ〜。幹部は俺が絶対に出来ないことを見越して言ってんだな・・・。)
そんなの、掌の上で踊らされているようなものだ。
最初から、どうあがこうと必ず失格にする気しかないなら、とことん派手にしてやる。
「分かった。踊ってやろーじゃん。」
二ヤリ、と武瑠は笑うと、雲の上でとびきり高く飛びあがる。
空の上に、重力はあまりないけれど、空中でくるくるとこまのようにまわった。
「行ってきまーす!」
「あッ、ちゃんと空の割れ目からダイブし・・・ってもう遅いか。」
ドリルの要領で雲に飛び込むと、下までポッカリと穴が空いた。
その勢いのまま、武瑠はモモンガのように体を大の字に広げ空を降りていく。
(ふ〜ッ 気持ちい〜。このままNYとか降りたいな〜。)
しかし、その華奢な身を襲ったのは、容赦ない強風だった。
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