novel

□武士道-bushido-FREAKY
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「ふむう・・・、断られたか。」
自慢の髭を撫でながら、四十路程の高貴な男はうなる。
「親方様」と呼ばれる男の前には、数十人の若者が皆揃ってひざまずいていて、また、皆揃って「家来」だった。
「しかし・・・、男と分かっていても、あの姫が欲しい!!」
扇子で、畳を叩く。
乾いた音が部屋に響いた。
「石高は勿論、あの美貌・・・。うぅ・・・、手に入れたい・・・!!」
「ですが、あの姫は未だ十七。もうじき十八を迎えるとて、年の差が・・・!」
「あの若さが良いのだ。年の差に文句などなかろう。」
これ(いわゆるロリコン)だから、今まで結婚できなかったんだよ・・・と、家来達はそれぞれに思うが、誰もが口をつぐんだ。
時はお江戸。
世間は平和とて、あまり長生きをしない浮世でこの男も、そう長寿ではないだろう。
それを分かっている家来も男自身もやや焦っていた。
「そうだ、ちょいとあの姫をここに連れて来い。」
突然の思い付きに、マジかよ〜とうなだれる家来達。
また、扇が畳を打つ。
「よいか?必ず円満に連れてくるのだぞ。無理矢理連れ去るなど、乱暴なマネはしてくれるな?」
「御意。」
・・・・・・とて、家来はまた別の意味でとらえていた。
しかし、男は本気だった。


「絶対に嫌と、何度も言っています!お父上!」
「そ、そうか・・・。」
強気に言われると、何も反論できなくなってしまう。
「父上」でもあり、また国を守る存在の殿であるべき男は、未だ女性には弱い面があった。
例え、姫とされている息子に対しても。
「しかし・・・、相手方は男でもかまわないと言っておるのだぞ?」
「もっと嫌です! 男でもかまわないなんて・・・。っていうか、あの方に興味ありません。」
「・・・では、shinpeiには、心に決めた相手でもいるのかの?」
shinpei、は雪のように白い頬を朱く染めて、こくんとうなづいた。
「そ・・・そうなのか・・・!」
「だ、だって今日でもう十八です。・・・そのくらい、います。」
「よろしい。・・・では、そやつを連れて参れ。」
畳何畳にも渡る部屋に、shinpeiの「はい〜?」という声が響いた。
「い、今はちょっと。」
「では、いつならよいか?」
「・・・今日、こちらに来てくれます。」
少し不安そうにつぶやいた。
「まぁ、いつでもよいが、出来るだけ早めに連れて参れ。そやつは、今宵のおぬしの祝いの宴には、間に合いそうか?」
「・・・分かりません。」
また、不安そうだ。
「そうか・・・。しかしまあ、間に合うと良いな。盛大な宴だ。ぜひ、そやつも共に祝ってもらいたいからの。」
「お父様・・・!!」
「しかーし!! shinpei、浪人だとか、おぬしに相応しくない様な輩なら、話は別じゃ!!」
「は・・・はい。」
こくこくこくと何度もうなずくと、鬼のようだった父上に表情が、おかめのように和らいだ。
「そうそう。shinpeiは相応しい男が分かる子で、嬉しいぞ。」
「あ・・・、はい。父上・・・。」
この時、shipeiは未だ、愛しの彼のことを完全には知らなかった。

「ね〜! 武瑠〜!!」
「呼んだ〜?ぺーさんっ」
一度、自室に戻ったshinpei。
壁から急に現れた忍者、武瑠を呼び出した。
武瑠は、shinpeiとは物心ついた時にはすでに共に行動していて、今では姫とお付きの忍者という主従関係にあるが、当の本人達には、あまりそんな意識はなかった。
むしろ、友達同士のようだ。
「ねぇねぇ。今日、Chiyu様来てくれると思いますか?」
「は?Chiyu様って・・・。」
Chiyuという名に反応して、武瑠の表情が曇る。
「あのね、ぺーさん。ヒドいこと言っちゃうけど、今、Chiyuは行方が分かんないの。」
「それ、聞いたことあります。・・・ですが、何故?」
巷の噂を、全く信じようとしていなかった。
「Chiyuはさ、尼崎ってとこに赴任してたんだけど、そこでいざこざがあって、つぶれちゃったんだって。」
「・・・こちらに帰ってきてるかも知れません。」
「あんまり期待しない方がいいって。・・・もう帰ってこれないかも知んないっていうのもあるしさ。」
「Chiyu様は帰ってきてくれます!・・・約束しましたから。」
そっと、2つ付けているかんざしのうちの一つを取って、撫でた。
「約束?」
いちごをかたどったかんざし。
それは、shinpeiにとって、何よりも大切な宝物だった。
「Chiyu様が、城を出て尼崎へ行かれる時にくれたこのかんざし。あの人は約束してくれました。十八の誕生日に必ず逢いにきてくださる、と・・・。」
目を伏せる姫に、武瑠は、何と声を掛けていいものか迷った。
思いつく言葉は、残酷な現実ばかり。
「えーっと・・・、水注すようで悪いんだけど、Chiyuって今浪人だから、このままじゃお城入れてもらえるか、分かんないんですけど・・・。」

「え、Chiyu様ってロウニンなんですか!?」
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