novel
□Happy Bell the CAT Birthday
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暑い夏の訪れも過ぎ去るのも街のにおいで分かった。
そして、とある真夏のある日、猫は影で寝そべりながら、毎年あることを考えていた。
(今日は大切な日・・・)
7月30日、ワタシの誕生日。
―
「なぁ、お前に誕生日とかあるの?」
朝食を食べながらたずねてきたAijiに、mayaはこくんとうなづく。
「7月30日です。」
(・・・まぁ、昨日なんですけどね。)
それを聞いたAijiは、特に驚いた様子もなくふーんとTVに視線をやっていた。
(・・・あれ?)
食べる手が止まる。
ぼぅ・・・と目の前の横顔を見つめた。
(なんだ・・・、そんなものなのか。)
mayaの胸に広がるもやもやした感情。
・・・分かりやすく言えば、ガッカリ。
小さく溜め息をつき、肩を落とした。
「・・・・・・。」
「あ、そうだ。午後から買い物行く予定だけど、ついてくるか?」
「んー・・・、留守番してます。」
Aijiを見送った後、リビングのソファにダイブする。
つい数か月前、猫の姿の頃からかわらない至福の時・・・。
「それにしても、Aijiさん、ちょっと冷血すぎっつーか・・・。」
寝返りをうちながら、朝のことを回想した。
「ちょっとくらい祝ってほしいっすよね〜。」
無関心な彼の態度が若干気になる。
驚いてくれたって怒らないのに。
「まぁ、言わなかったワタシもワタシっすけどね。」
ぶつぶつと文句を言いながら、まぶたを閉じる。
エアコンのよく効いた部屋で、mayaは健やかな寝息をたてながら浅い眠りについた。
―
(ん・・・、ここは・・・。)
自身の手を見る。
桃色の肉球と、サラサラの黒い毛。
(え・・・っ!? 猫に戻ってる・・・?)
辺りを見まわす。
そこは、mayaが住み着いていたあの懐かしい商店街の細い路地だった。
(・・・ってことは、夢?)
大きな通りに出る。
行き交う人々、所狭しと並ぶ店、音楽、どこからか子供の声・・・。
(ああ、ここはワタシの思い出の世界だ。)
そして、感覚的に7月30日だと察した。
街のにおいや、勘がそうだと言っている。
少し人の流れに合わせて歩いていく。
両手に、大きな白い箱を持った男の子と、お母さんとすれ違った。
「ケーキよかったわね〜。」
「はい。」
「だって今日は、お誕生日だものね。」
そんな会話がうらやましい、と思った。
(Aijiさんがクサいことする人じゃないっていうのは分かってたけど・・・。)
mayaは独り、とぼとぼと歩きだす。
その先、たどりついたのは、果てしない薔薇園だった。
―
「・・・ん・・・。」
そこで目覚めたはずなのに、視界いっぱいの紅と、華の香り。
目をこすってみると、それが大きな薔薇の花束だと分かった。
自身の腹の上にのせられていたそれを手に取り、よく見てみる。
カードが紛れていた。
『Happy Birthday to maya』
「これって・・・。」
「目、覚めたか?」
「Aijiさん・・・。」
ダイニングキッチンの方から歩いてきた彼は、mayaの傍らにひざまずく。
金髪の頭をぽんぽんと撫でた。
「ったく・・・。お前、言えよな。いろいろ中途半端になるだろ?」
「はぁ。」
「今日、とりあえず誕生日っぽいことって食事しか用意できなかったけど、またプレゼントとか今度な。」
「・・・?」
事態が把握できないmaya。
Aijiにエスコートされて、ダイニングテーブルの椅子に座った時に、やっと分かった。
(わ・・・ッ!)
「俺、料理出来ないから、全部買ったものだけど・・・。」
「いいっスよ。早く食べましょう。」
「おう。」
mayaは、たくさんの豪華な料理の中に、ホールケーキを見つけた。
イチゴのショートケーキだった。
薔薇のブーケを近くの棚に置いて、代わりにナイフとフォークを持つ。
「ケーキは最後だからな?」
「・・・はい。」
何故か、その響きがとても懐かしかった。