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「MITSURUさん、検温の時間ですよ。」
「ああ、はい。」
窓際に立って窓の外を見ていた青年は、病室に入ってきた看護師に笑みを見せる。
そして、ゆっくりベットにもぐった。
「shinpeiさんでよかった。他の方なら怒られるんですよ。」
「みなさん、MITSURUさんが心配なんですよ。僕も、秘密がなければ怒っていますよ。」
秘密、という言葉にshinpeiと呼ばれる看護師はニヤリと口角を上げて笑って見せる。
MITSURUは苦笑した。
「他の方にはあまり知られたくないですからね。…恋をしいてるなんて。」
検温の準備をしながら、看護師は楽しそうに笑う。
チラッと窓の外を見た。
「素敵じゃないですか。そういう気持ちで病が良くなるって、あると思います。」
「まだ、彼らはいますか?」
静かに、うなづく。
子供のようにキラキラした瞳で笑って返した。
「じゃあ、急がないといけませんね。
恋の続きをしてもらわないと。」
「なかなかロマンチックですね。」
検温はものの数分で終わる。
shinpeiが病室を出ていくと、MITSURUはすぐにまた窓際へ戻る。
長い入院生活の中で、一番心がときめく時間。
「…あ。」
しかし、その日はハズレだった。
(もう片付け始めてる…。)
はあ、と苦笑で溜め息をつくが、やはり窓辺からは離れられなかった。
(…いつか目の前で見たいな)
MITSURUは長い入院生活の中で初めての恋をしていた。
それは、丁度窓から見える駅前で路上ライブをしている、2人組バンドのボーカルに恋をしていた。
近いようで遠く感じる、恋をしていた。
(いつか、君を主人公に…)

「ぺーさん!」
「あ、まーたん先輩…!」
随分整った顔の看護師は、まーたんと呼ばれるがmasatoという、shinpeiの先輩だ。
実年齢は誰も知らないが、キャリアは相当長いらしい。
「MITSURU君、今日はちゃんとベットにいた?」
MITSURUの部屋から出てきた所を見られていたようだ。
内心で冷や汗をかきながら、はいっ!と元気よく返事した。
本当のことを言ってしまえば、彼が怒られてしまう。
「なら、いいんだけど。出来るだけ安静にしてくれていないと、ね。」
「そ、そうですね…。」
「…ちょっと?ぺーさん…?」
ぺーさんというのは、masatoが付けたアダ名だった。
疑うような声でshinpeiを見て、首をかしげる。
「…何かかくしたりしてないよね?」
「え、も、勿論!」
あせって、声が上ずってしまった。
それでも、ハッキリとした目でmasatoを見つめる。
ガラス玉のようなそれに、shinpeiの顔がうつっていた。
「うーん…、そーお?」
「そうです、そうです!」
masatoは、疑い深い目をやめて、いつもの愛らしい表情に戻った。
「さ、仕事に戻ろうか。」
「はい!」
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