novel

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「今日を境に、しばらく見ることは出来なくなってしまうのですね…」
「そうですね…」
MITSURUはその日も窓の外を見ていた。
しかし、いつもと違って物憂げな表情だ。
「いつまでですっけ、抗がん剤治療。」
「明日から5週間です。」
それを聞いて、また物憂げに溜め息をつく。
まるで、映画のワンシーンのように絵になった。
表情や仕草も、美男のMITSURUがしていると、それだけで華がある。
しかし、彼は…ー
「ぺーさん、彼らは治療が終わってもまだ活動してくれていると
思いますか?」
「え?はい!そうだと思います。」
「そうだと嬉しいのですが…。」
「あの人たちを信じましょう。」
その日の検温はまずまずだった。
終わってすぐ、彼はまた窓辺に立つ。
「よかった、今日はアンコールが何回か行われているようです。」
「そうなんですか!」
「はい!…どんな歌を歌っているのですかね、一度聞いてみたいものです。」
「そうですね…。ここからでは、聞こえませんから…。」
話をしているうちに、演奏が済んだのか、MITSURUは何度か拍手をした。
そして、外から目をそらさずに、shinpeiに話しかける。
「でも…、元気な姿を見られるだけで幸せです。」
「……。」
しんみりと呟き、切なく笑うMITSURUにかける言葉は無かった。
「この病がなければ、彼らの演奏を見に行けるけども、この病のお陰で彼に出逢うことが出来ました。ならば、出逢えたことを喜びます。」
「……。」
「皮肉に聞こえたのなら、ごめんなさい。」
「いえ…。ただ、本当にそうだなって思って。いや、そりゃあご健康なのが一番なんですけど。」
MITSURUの顔がshinpeiに向いた。
眉をひそめて、苦笑している。
「…この治療で俺は少しでも回復しますか?」
「えっと、そうだと思います!」
彼に笑ってほしくて、つい口からのでまかせだった。
でも、そうだと信じている。
「回復すれば…彼に会えますか?」
「…はい。俺が約束します!」
「えっ、本当ですか?」
「はい!」
これも、でまかせだ。
しかし、shinpeiは自信を持って応えた。
「MITSURUさん、あの人を見れると思って頑張って下さい!」
「はい、ありがとう。」

病室を出てから、shinpeiの手が震えだした。
(どうしよう…、約束しちゃった。)
今更、後には帰れない。
(MITSURUさんと…あの人達を会わせるんだ。)
震えを無視して、こぶしを握りしめた。
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