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4週間後、shinpeiは夜勤の前に駅前に来ていた。
目的は一つ、いつも駅前で路上ライブを行っている2人組だ。
「すいません、少しいいですか?」
「んー?何ですか?」
準備に励む2人に声をかけると、金髪のボーカルの方が愛想よく振り向いてくれた。
もう1人のギターの彼は、エレキギターにかまっていて、見向きもしない。
「あの…、お2人の路上ライブの様子を、動画で撮影させていただいてもいいですか?」
「え、動画?」
「…は?何すんの?」
ギターの彼がおもむろに立ち上がり、ボーカルと並ぶ。
その時、2人が圧倒されるような美男であることが分かった。
そして、ギタリストが、ボーカルの前に出る。
「何に使うか…ハッキリ分かる?」
「えっと、あなた方のファンがいるんです。しかし、理由があって、ここまで来られないんです。」
「は?どういうこと?」
「来られないのに…ファンなんですか?」
ゆっくりうなづき、眉間にしわを寄せた。
「…なんかよく分かんねぇけど、動画とかは俺たちそんなことやってないんだよね。…そのファンって人にも、生の音聞いてほしいし。」
「で、では!病院まで演奏に来ていただけないでしょうか…?」
「…病院?」
「その人、病気なんですか?」
ボーカルは辺りをキョロキョロ見渡し、『アレ?』とshinpeiの勤める病院を見つけ指差した。
うなづき、同じ方を見る。
「いつも病室の窓から、あなた方のライブを見ています。」
「どこの部屋ですか?今もですか?」
「上から3列目の、右端の部屋ですが、今は見れません。1人で抗がん剤治療を受けています。1週間後に戻ってこれます。」
「病院からは出られないんですか…?」
静かにうなづくと、ボーカルの可愛らしい顔がくもった。
「ねぇ、yuji!病院でライブしよーよー!」
「はぁ、何言ってんだよお前。病院でライブなんて迷惑だろ。」
「だってその人、来られないんだよ!?」
「なぁ、病院には、俺らがライブしてもいいくらいの設備はあるのかよ?」
急に質問を投げ掛けられて、shinpeiは戸惑った。
自分はそんなこと分からない。
「…無いなら、できねーだろ?悪いけど。」
「ええ!?でも…」
「そいつも今、治療してんだろ?なら元気になれるんじゃね?元気になりゃ、来れるだろ。じゃ、そういうことで。」
ギタリストのyujiは、それだけ言うと自分の場所へ戻っていった。
「あの、俺、武瑠。俺ら、TEBRAってバンドなんです。yujiはああ言ってるけど、俺だけでも、いつかその人に逢いに行ってもいいですか?」
「え、ああ…、はい、勿論!」
武瑠はニカッと笑い、頬をくぼませた。
『それじゃ』と彼も持ち場に戻っていく。
(でも…、これじゃMITSURUさんとの約束を果たせたことになるのかな…。)
病院までの道をとぼとぼ歩いていく。
複雑な感情だった。
(武瑠さんの方は来てくれそうだけど…。)
「ぺーさん!」
「え?あ、まーたん先輩!!」
向かいから、モノトーン調のコーディネートをしているmasatoが手を振り寄ってくる。
街の中でも目をひく彼に見とれているうちに、彼はすぐ目の前まで来ていた。
「お仕事、お疲れ様です!」
masatoはその日、早出の勤務だった。
「ありがとう。あ、ねーねー、ぺーさんって、こっちの方だったっけ?逆方向じゃない?」
「あー…えっと…、その…。」
彼の言っていることは間違いではない。
shinpeiはわざわざ駅前まで来ていた。
「…まーたん先輩。」
「ん、なぁに?」
次の瞬間、masatoの腕にshinpeiが泣きついた。
「助けてください!!」
「え?助けて…?」
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