novel

□生贄彼氏〜HAPPY 製造日〜
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―10月21日
朝からyujiを見送って、僕は用意を始めた。
月曜日だから、丁度僕が勤めている美容院は休みだ。
すぐに買い出しに出掛けて、今帰ってきた。
彼の大好きなものをたくさん買い込んで、この間感じた味覚のことを更に感じた。
(yujiって若いな…。)
調理を始める前に部屋を片付ける。
しかし、日頃から綺麗にしているから、そんなに手間も時間もかからなかった。
(何しようかな…、あ!)
部屋を見渡した時、丁度写真が飾られている一角が気になった。
僕たちは何かあるごとによく写真を撮る。
だから数々月前に、たくさん写真が入る可愛い写真立てを買った。
観覧車を型どったいくつも写真が入る写真立て。
そのどこにも写真が入っているのだけど、全て2人共が写っている写真にしている。
(割りと古いのが多いな…。入れ替えようっと。)
アルバムを出してきて、最新の方から取り出していく。
すぐにプリントするようにしているから、新しい写真が揃った。
(よーし、入れ替え…)
「…ん?」
写真立てに入っている昔の写真と、取り出した写真を比べる。
僕は顔付きはほとんど変わらないが、髪型はよく変わっていた。
しかし、yujiはどの写真を見ても変わらない。
髪型だって、顔付きだって、何も変わらない。
背筋がゾッとした。
(僕は年をとる。でも、yujiは変わらない。僕は1人で年をとっていくの…?)
今はあまり見た目の年が違わない僕たちも、いつか僕だけおじいさんになっていってしまうのだろうか。
(そうなっても…yujiは僕を好きでいてくれるのかな。)
アンドロイドだから持ち主を永久に愛してくれるのかも知れないけど、それでも僕は嬉しいとか感じられるのかな。
yujiはそれでいいのかな。
(……。)
僕は写真を全て移し替えた。
真ん中の一枚だけスペースを空ける。
今日の写真を入れるために。
(…yujiに聞いてみようかな。これからのこと…。)
yujiはどういたいか。
僕は、どんな返答も受け入れられるのか分からない。
だけど、yujiの幸せのことを考えると、そうするしかない。
(あーあ…。何でこんなおめでたい日なのに、こんなこと考えてるんだろう…。)
気分転換をするためにケーキ作りを始めた。
せっかくの記念日なのだから、楽しい気持ちでいたいのに、いつまでたっても晴れることはなかった。
それからはyujiが帰ってくる夕方までに、料理を作り揃えなければならなかったから、準備に追われた。
僕は、なんだか暗い気持ちのまま、その時を迎えることになってしまった。


「ただいま〜。」
yujiの声が聞こえて、僕はリビングの扉のそばにスタンバイした。
出迎えないことを不思議に思っているのか、僕を呼んでいる。
その声が徐々に近付いてきて、息を飲んだ。
「まーたん?」
その扉が開いた瞬間、僕は飛び出してクラッカーを鳴らした。
「お誕生日おめでとう!yuji…って、あれ?」
「ありがとう!!…気付いた?」
驚きと照れが混じったような顔のyujiは、眉をひそめた苦笑を浮かべる。
朝出た時とガラリと雰囲気を変えたyujiに、僕は目を奪われた。
ツンツンしていた髪型が、真ん中で分けた長めのフワフワした髪型に変わっている。
大人っぽくてかっこいい。
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