novel

□Aqua
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『Aqua』と呼ばれる神秘の生命体を初めて見た時、宗弥は恋に落ちた。
それは、Aquaなら何でもいい訳ではなくて、そのAquaは可愛らしかったからだ。
Aquaというのは、上半身が人間で下半身は魚のようになっている、いわば人魚の新種だ。
ヨーロッパの方で近年発見されてから、研究者やマニアの間では大変な人気を得ている。
その特徴は2つある。
数が少ないといわれていることと、美しい男性であることだ。
よく人魚ときけば、髪が長く美しい声で歌う、女性の人魚を連想するだろう。
しかし、今までに目撃や捕獲された事例では、全て美しい男性だった。
今、宗弥の目の前にいるAquaもその例外ではない。
茶髪で蒼い瞳をしたネコ目の少年。
下半身のウロコも瞳と同じ色を基調としていて、光が当たる度、キラキラと蒼い光を放つ。
(なんて美しいんだ…。)
一瞬で、彼に心を奪われた。

「どうだ、宗弥。珍しいだろう。」
「ああ、お祖父さま。珍しいというか…、美術品のようですね。」
大きな水槽のある書斎に入ってきた老人は、感動したような孫の表情と言葉に、満足そうに笑んだ。
彼は考古学者だ。
日本でも有数の才能や知識、経験を持っているため、業界では有名だった。
そして、宗弥の祖父でもある。
「美しいだろう?この競りは、なかなか盛り上がったよ。新春のまぐろの競りのように。…魚だけに。」
「ああ…、そうですか。」
彼がAquaを買い取ったのは、いわゆる闇オークションだった。
彼のような考古学者は勿論、見せ物小屋を営む者なども利用するそのオークションを、宗弥は嫌悪していた。
取り扱っているのは、美術品なんていう品物じゃない。
珍しい生物や奇形の人間…そのオークションは命を売り物にしていた。
宗弥の思いを知っているから、普段は祖父もそれを利用せずにコレクションを集めている。
しかし、今回は彼も注目しているAquaが出ると聞いて、そのオークションに参加したのだった。
「アイツにも見せてやりたかった。」
「……。」
アイツというのは、彼の友人だ。
人魚の研究を進めていたが、Aquaを探しに行った旅先で不慮の事故に遭ってしまったのだ。
「…teruを連れてきてもいいですか?」
「ああ。アイツの意思を継いでもらいたい。ぜひ、見せてあげなさい。」
teruというのは宗弥の友達で、その祖父の友人の孫だ。
teruも人魚に興味があって、大学でも研究をしている。
実物は見たことがないと言っていたので、喜ぶだろう。
「じゃあ、呼んできます!」
「ああ、あと、この辞書をここに置いておくよ。Aquaの国の辞書で、これで筆談ができるだろう。」
「ありがとうございます!」
興奮気味な孫の顔に、満足そうにうなづいた。
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