novel

□Aqua
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「まぐ〜、まぐ〜?」
屋敷内を見渡しながら、宗弥は弟を探す。
洋式の館はまるで迷路のようだ。
住人は、祖父と宗弥と弟のmagと、使用人が何人かだから、勿体無さは否めない。
「何、兄ちゃん。」
自室から声を聞き付けて、少年がひょこっと頭を出す。
宗弥と3才離れて、高校2年生の彼は中性的で、顔立ちが整った少年だった。
もう昼前だというのに、眠たそうに目をこすっている。
朝食の時にはいたから、二度寝をしていたのかもしれない。
「今からてるしーのところ行くけど、来る?」
「行く。ちょっとタイム、着替えるから。」
てるしーというのは、teruのアダ名で、magはteruと恋仲だ。
teruは宗弥と同級生だから、magから見て年上にあたるが、幼い頃からの仲だから気にならないらしい。
「Aqua見た?」
「いや、まだ。初めて見る時は、てるしーと一緒がいい。」
ヌーディーなオレンジ色のシンプルなトップスを着るのを、何となく眺めていた。
彼は兄である宗弥にも、強いて言うなら誰にでもタメ口で話す。
体格の差もなく、むしろmagの方が背が高いくらいなことや、年の差が大きくないこともあり、あまり弟という意識は宗弥の中ではない。
その意識はmagも同じのようで、友達同士のように育っていた。
「よし、行くぞ兄ちゃん。」
「ああ。てるしーはいるかな。」
「いるだろうよ。出不精だから。」

両家の屋敷は隣り合っている。
しかし、お互いの屋敷はそれぞれ豪勢で敷地が広いため、なかなか歩かないといけない。
「…はあ、やっと着いたか。」
門の前でチャイムを鳴らし、インターホンの受け答えを待つ。
「はい。宗弥様、mag様。」
インターホンにカメラが付いているため、すぐに認識された。
こういう連絡で、本人が出ることはない。
常に使用人の1人や2人が必ずいるからだ。
それは宗弥達の家でも同じだった。
「すぐにteru様を呼んで…って、ああ!!」
何が起きたのだろうか。
インターホンの奥の声が途絶える。
「てるしー?」
「兄ちゃん、見てみて。」
magが指差した先にいたのは、白衣を羽織ったteruだった。
少し奥に見える玄関から、黒髪のポニーテールを揺らしながら軽快に歩いてくる。
眼鏡の奥の瞳はキラキラと輝いていた。
「メイドさん無視して勝手に出てきたんだろうな。」
「ああ。てるしーらしいねぇ。」
石畳を歩き、2人の元へ着いたteruは門を開ける。
「おはよう、てるし…」
「やあ、Aqua、ついに来たんでしょう!?」
「ああ。それでてるしーに…って」
2人を無視して、teruは歩き出す。
人魚を研究している者にとって、これは2人が話すのさえ聞いているのが惜しいくらいに待ちきれないことなのかもしれない、肉眼で見ることができるAquaは。
「ネットで人魚がオークションにかけられた時はどうなるかと思ったよ。まさか、こんな事になるなんて…」
「すごく美しいAquaなんだ。」
早足で歩く彼について行きながら、Aquaの容姿を語った。
興味を持ったのか、少しだけ歩みがゆるむ。
「青い…へぇ。」
「俺、まだ見てない。初めて見る時はてるしーと一緒にって思って…」
「あら、そうなの。早くお目にかかりたいものだね。
「ああ。もうすぐだよ。」
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