novel

□Aqua
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家につき、早速水槽のある書斎に向かった。
teruはその家の間取りが分かっているから、ずんずん勝手に進んでいく。
「やぁ、teru君。」
「こんにちは、先生。Aquaに会いに参りました。」
書斎の途中の廊下で、祖父が顔を出す。
好奇心に満ちた表情を見て、彼は満足そうに笑んだ。
「ああ、ごゆっくり。」
軽く会釈すると、teruはまた早足で廊下を進む。
置いていかれそうになる兄弟を、祖父はあたたかく笑っていた。

「この先に…Aquaが…」
書斎の扉の前でteruの歩みが止まった。
重厚な木の扉に付けられた金色の取っ手を握る。
「ちょっと緊張するな…。」
ゆっくりと扉が開き、その奥の光景を初めて見る2人は息を飲んだ。
宗弥もその美しさを前に、再び目が釘付けになる。
「うおー、すげー。人魚だー…!」
magが水槽にかけ寄り、子供のようにはしゃいだ声を出した。
中の彼に手を振ってみたり、おいでおいでと手振りで合図を送っている。
「…あれ、見えてないのかな?」
彼は宗弥達を怪訝そうに見ているだけで、何も反応を示さない。
teruが前に出た。
「僕がやってみるね!」
と、意気込んでいるteruは、急に聞き取れない言葉を発した。
それに反応して、Aquaが驚いた表情をする。
「何言っているんだろう…。」
「さぁ。きっと、彼らの使っている言葉なのだと思う。英語では無いことは分かるんだけどね。」
「兄ちゃんも勉強不足だな。」
「ええっ!? これから…、彼らの言葉を勉強しようと思ってるんだって!」
兄弟がそんな会話をしているうちに、teruとAquaは会話をしているようだった。
「ねー、宗弥。Aquaさん、ここは最悪って言ってるよ?」
「ええっ!? 具体的にどう最悪か教えていただけるかな?」
「了解。ちょっと待ってね。」
Aquaは眉間にシワを寄せていた。
そういえば、彼の笑ったところを未だ見ないな、と気がつく。
「宗弥、メモの準備はいいかい?」
「あ…、ああ。大丈夫。」
服のポケットからスマートフォンを手に取り、メモの画面を開く。
「まず、水温が低いらしい。それと水槽がせまい。あとは身を隠すところがなくて、プライバシーが皆無だって。」
「はぁ…、分かった。お祖父様に相談してみるよ。すぐに改善しますって伝えてくれるかい?」
「かまわないけれど、改善できるんだね?」
「お祖父様なら、なんとかしてくれると思う。」
祖父は孫と研究のためなら金を惜しまない。
その両方を兼ねているから、相当協力的になってくれるはずだ。
「早速、相談しに行ってくるよ。」
「僕も先生に聞きたいことがあるから行く。」
「じゃあ俺も。」
「…magはいていいだろ。」
無駄を指摘した宗弥に、magはべーと舌を出した。
「な…ッ!?」
「てるしー、行こ。」
「うん。」
「…ええ〜。」
宗弥はmagに勝てない。
基本的に兄の方が上の立場であるはずだが、弟には勝てない。
理由は分からない。
きっと、永遠に。
別にteruと2人きりがいいわけではなくて、ただ何となく言っただけだったのに…。
「兄ちゃんも早く来いよ!」
「ああ、うん。」
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