novel

□不完全Beautyfool Days
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店では、LEDの撤去も中盤まで進んでいた。
(・・・わッ!)
外で何かが落ちるような音がして、地が少し揺れた。
とっさにつかんだのはLEDのロープだった。
(これ・・・思いの他、頑丈だ。)
少し引っ張ってみても、簡単にはちぎれそうにない。
もしかしたら成人男性一人分くらいの重さをぶら下げても、支えられるかもしれない・・・。
ふと、男の脳裏に非人道的な思案がひらめいた。
どうせ、金もスタッフも親友も恋人も全て同時に失って、残ったのは空っぽの店だけだ。
(もう・・・生きていく意味無いし。)
よからぬ思案は、思いもよらない衝動を生む。
ロープを首に掛ける。
不思議と恐怖なんて感じなかった。
丁度、たゆんでいる所があって、まだ両サイドは壁に固定されたままだから、足場がなくなれば・・・その先は想像がついた。
(どうせ何も残ってないんだ。)
キャタツにまたがっていた片方の足を反対側にまわして、両足をそろえる。
(さよなら、人生。)
せめて、来世は美しい日々でありますように。
目をつむって、キャタツを蹴飛ばそうと足に力を入れた。

「ねぇ、死ぬの?」

店の扉が開いた。
外はすっかり暗いのに、何故か光が射したような錯覚を覚えたのは、照明が扉を開けた金髪に反射した現象だろうか。
「死にくらいならさ、俺と来る気はない?」
俺、神なんだけど、そう言った青年は口の下にピアスを開けていて、笑うとえくぼが浮かぶ美青年だった。


「神・・・?」
「うん。武瑠っていうの。よろしくね。」
「・・・・・・。」
未だ「準備中」という看板を出していたハズなのに、この客はどうやらただの客ではないらしい。
(宗教かな・・・。)
「あの、俺死ぬ気とかないんで、出てってもらっていいですか?」
「うそだねー!!俺が今出ていったら絶対死んじゃうでしょ?」
「・・・。」
なかなかしぶとく、全く出ていく気配を見せない。
とて、首をLEDのロープにかけた人間を前に見捨てる人がいるのだろうか・・・。
(まぁ無理ないか。)
「今死ぬのやめて俺の手伝いしてくれるって言ってくれたら、キミの来世にモテるでしょう。」
「は?来世?」
「うん。神だから分かる。つーかさ、手伝ってくれるだけでいいんだって。キミの3日間だけ一緒に居てくんない?」
最近の宗教は教祖自ら神になるとでもいうのだろうか。
武瑠は、いたって人間のルックスだった。
「・・・手伝いって何をすれば?」
「俺について来て。5人の自殺しようとしてる人を3日以内に止めなきゃ俺、神失格にされちゃうんだよね。キミ入れたらあと4人。」
「・・・・・・分かった。」
と、ロープを首から外し、キャタツからひょいっと飛び降りる。
あまりにもあっさり諦めた男に対し、目を丸くした武瑠。
「いいの!?」
「代わりに条件。手伝いが終わって合格したら俺は死ぬ。・・・止めないこと。」
「う、うん。合格したら俺は天に帰らなきゃ。」
「じゃあいいよ。4人を手っ取り早く探そう。」
俺はMITSURU。そう名乗ったのに対して、武瑠はにっこり笑ってその他のプロフィールを述べた。
「自殺しようとした理由も知ってる。俺、神だから。」
「・・・・・・。」
「疑ってる?」
「否。本物なのかなーって。」
新手の宗教につかまってしまったな、と内心で後悔しながらも、目の前の青年のことが気になって仕方なかった。
どこから来たのか。
どうしてプロフィールがそんなに詳しいのか。
神というのはどういう意味なのか。
疑問は絶えない。
「MITSURU・・・だからみっちゃんね。行こう、みっちゃん。善は急げッ!」
「わッ!ちょっと待って!」
突然、手首をつかまれたかと思うと、店の外にぐいぐい引っ張って連れていかれる。
外に出て、夜空を見上げた武瑠が、アッと声を上げた。
一点に向かって人差し指でさす。
「あれ見て。月と反対側。穴あいてるみたいに色違うでしょ?」
「あぁ、うん。色が薄い気がする・・・。」
ポッカリと丸いその部分だけ、漆黒に染まらず、淡い灰色をしていた。
「あれ、俺があけた穴。のむさん、埋めてくれたんだ〜。」
「空に穴?」
「うん。ちょっとね、地上降りる時に。俺けっこう乱暴だから、空にいっぱいそういうとこあるよ。直すのもザツだしね。」
えへへ、とイタズラ少年のようにはにかんだ。
「空だって、穴だらけでツギハギだらけ。この世の中、そんなものバッカリなのかな。」
「・・・そうかもね。」
なぜかその考えには共感できた。
「でもいいよね。また直せるんだから。元通りじゃなくても、改良してもっと良くすればいいよね。」
「・・・。」
親友も恋人も失った今、改良の余地なんてあるんだろうか。
不意に武瑠が歌いだした。
MITSURUの知らない歌だった。
「不完全Beautiful Days?」
「不完全Beauty fool Daysだよ。美しいだけじゃないの。」
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