novel
□sweeToxic
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「失礼しま・・・って・・・ッ!?」
目が合ったかと思えば、それは天井から吊り下げられた、くまだった。
卑猥な姿で縛られている。
(何、この内装・・・。)
壁が赤く、床が黒い。
それは普通のようだが、インテリアはどこか洒落ていて、そしてどこか趣味が悪い。
趣味が悪い、といっても、嫌悪感ではなくて、一風不思議なものがいくつも設置してあった。
(これは・・・出た方がいい・・・!!)
自己防衛本能が、そうかき立てる。
shinpeiは、今度こそきびすを返・・・
「恋でお悩みですか?」
横から声をかけられて、背筋が凍りつく。
ゆっくり、声の方を向くと、薄暗い中に1人の男性がいた。
背が高く、shinpeiを見降ろして微笑んでいる。
「えっと・・・、その・・・」
「いらっしゃいませ。ようこそ、sweeToxicへ。」
「はぁ・・・。」
邪気を感じさせない彼の笑みに、shinpeiはポカンと口をあけた。
毒々しいインテリアとは対照的だからだ。
「恋で、お悩みですか?」
繰り返された質問に、shinpeiは思わずうなずく。
その後で、ハッと気が付いて、口を手でおおった。
「ラッキーですよ。ここ、中々あいてないので。」
「そうなんですか・・・。」
「あ、すいません。立ち話も可笑しいですから、こちらへどうぞ。」
座るように促されたのは、紅いソファだった。
そのソファ自体は可愛らしいのだが、置いてあるクッションはいかがなものだった。
(F・・・U・・・C・・・K・・・。)
その4文字の単語の意味を無論知っていたから、黒くて横に長いそれから目をそらす。
「今、先生をお呼びしますね、武瑠〜ッ!」
店の奥の方に向かって呼びかける様を見ながら、shinpeiの心は不安に満ちていた。
(先生なのに・・・呼び捨てじゃん・・・!)
「もうすぐ来られると思いま・・・。」
ガッシャーンッ!!
「・・・すよ。」
「い、今の音は!?」
心臓が飛び出る程に驚くshinpeiに青年は苦笑をしながら、『大丈夫ですよ』とフォローした。
「日常茶飯事ですよ。」
よく耳をすませば、店の奥からは様々な物を倒すような音が聞こえる。
(えー・・・、大丈夫ってそんな・・・、おおらかな・・・っ!)
「お待たせ!」
「あ・・・」
現れたのは、真っ赤なスカートをはいた、少女・・・のような人だった。
少年のような声をしているが、顔立ちは大人っぽいから大人だろう。
笑っていると、両頬にえくぼのできる、キュートでも、どこか大人気がある顔立ち。
(こんな顔だったら、Chiyu君にも告白できたのかな・・・。)
しかし、よく見ると、鼻の先が紅くにじんでいる。
「鼻・・・。」
「あー・・・、えっと、起きる時スカート踏んじゃって・・・。」
意外と、そそっかしい性格のようだ。
誤魔化し笑いが、子供みたいだった。
背後で、青年の溜め息が聞こえる。
「・・・で、新しいお客さん?」
「そうだよ。」
「ふーん・・・。」
武瑠と呼ばれる青年は、つかつか歩み寄ると、shinpeiの顔をのぞきこんだ。
紅いカラーコンタクトの大きな瞳に見つめられて、何故か身動きが取れなくなる。
「悩んでんの?」
「はい・・・。」
急に魔力が薄れた目がキュッと細くなって、彼が微笑んでいた。
「キレ―な顔してる人が来るのって珍しいよ。」
「え・・・、はぁ・・・。」
面と向かって顔だちを褒められることはなかなか無いから、顔が照れて朱く染まる。
「残念なイケメンはちょいちょい来るけどね。まぁいいや、話聞こう!」
「えっと・・・、お願いします・・・。」
武瑠が向かいあうソファの正面に座り、その傍らで長身の青年が彼の鼻の手当てをしている。
どんな人なのかを具体的に聞かれ、shinpeiは懸命に答えた。
「・・・それで、見た目とかは?」
「金髪で・・・背が高くて・・・、ピアスが片耳に3つあいてて・・・。」
「え・・・、あ、うん。」
何か思い当たるような顔を一瞬見せたが、すぐにいつもの表情に戻る。
「で・・・関係は?」
「会社の・・・後輩です。」
「ああ〜! ・・・いや、ごめん。なるほどって思って。」
コホンと一回咳払いをして、彼は立ち上がった。
「・・・本当に、俺らに頼ってでも叶えたい恋なの?」
「え・・・、はい・・・。」
「どんなリスクがあっても?」
(お金のことかな?)
shinpeiはゆっくりうなずく。
1人暮しの働き盛りで、お金はそこそこ貯まっているからだ。
「そっか。なら、いいんだけど。」
パッとスポットライトが、部屋の一部を照らす。
そこはキッチンのようなスペース。
武瑠が、カウンターの奥に立つ。
「さて、調合しようか、彼の好きな味は?」
「えっと・・・分かりません。」
「じゃあ、おススメの味にしていい?」
武瑠はニコッと笑い、舌をペロリ出す。
「甘い毒を、召し上がれ。」
(え、毒・・・!?)
しかし、後戻りはできないようだ。
扉の方を見れば、あの長身の男はその前に立ちふさがっていた。
「あ、あの、俺・・・ッ!」
「大丈夫、美味しいから。」
鍋の中に次々にカラフルな液を流していく武瑠。
漂ってくる香りは魅惑的で、背筋がゾクゾクと反応した。