novel

□sweeToxic
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「でーきたっ!」
ドクロ型をした透明のグラスに注がれたのは、鮮血の様に深紅の甘い毒。
半分程注がれていた。
「何で割る?炭酸?ミルク?」
「じゃあ・・・炭酸で。」
「了解!」
アイコンタクトで、奥の方に姿を消す長身の男。
すぐに戻ってきて、ボトルの中のものをグラスに注ぐ。
小さな泡を無数に出して、完成したそれをshinpeiに差し出した。
「飲んで。」
「今・・・?」
「そう、今ここで。」
受け取って、香りを確かめる。
複雑な中に、苺の香りがあることが分かった。
(これを飲めば・・・、俺のことをChiyu君が好きになる・・・。)
水面をジッと見つめる。
(でも・・・そうしたらChiyu君の恋が終わる・・・。)
あのホームで見た光景が反芻されたが、振り払った。
だって、好きなのだから。
手に入りきらないChiyuが、shinpeiは欲しいのだから。
(ごめんなさい・・・、でも負けたくない!)
目をつむって、一気に飲み干す。
甘ったるい苺味。
泡が口の中で幾つも弾ける。
のどの動きを見ていた武瑠は、ニヤッと笑い、一方で長身の男は呆れたような顔をしていた。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
息もせずに飲んだせいなのか、もしくはこの毒の所為なのか、頭が一瞬ぼんやりする。
空になったグラスを両手で持ったまま、ボーッとしていると、目の前に小瓶を突き出された。
「この中には、さっき飲んでもらったのと同じものが入ってるんだ。」
「はぁ・・・。」
「いい?この中のものを、その相手の人に全部飲ませるんだよ。」
グラスと小瓶を入れ替えて、小さな手に握らせる。
未だ意識がはっきりしていないshinpeiの耳元で、悪魔のように囁いた。
「全部飲ませることができたら、またおいで。この店に戻ってくるんだ。」
ハッと急に我に帰った彼は、自分のしてしまった事の罪悪感と、Chiyuに対する想いが入り混じって、少しパニックのようになっていた。
「あの・・・、アルコールとか入ってませんよね?」
「未だクラクラする?それ、特別な媚薬だから。」
媚薬という言葉に、shinpeiの頬が染まる。
「これで・・・恋が叶うんですか?」
小瓶を両手で握りしめて、胸にあてる。
「・・・・・・。」
しかし、2人は何も答えずに、ただ意味深に微笑んでいるだけだった。
これ以上追求しても、無駄なことを察して、shinpeiは立ち上がる。
「んじゃ、また来てね。俺、もーちょっと寝るー。」
奥に行ってしまう背中に一度、会釈した。
「これをどうぞ。」
男が差し出したのは、名刺程の大きさのカードだった。
白地に、ロゴが描いてある、『sweeToxic』。
裏には、大まかだが分かりやすい地図が赤や金で描かれていた。
「まだ名乗ってませんでしたね、MITSURUと申します。」
「MITSURUさん・・・。」
「お帰りにはお気を付け下さい。分かりにくい場所ですから、道に迷われませんように。」
MITSURUが扉を開けてくれる。
ぺこりとお辞儀をして店を出た。
(あ・・・お金とかよかったのかな・・・?)
ぼんやりと考え事をしているうちにたどり着いたのは、あの駅の前だった。


次の日は一日中休みだったが、すでに予定が決まっていた。
遅めに起きて、出かける準備をする。
午前11時頃に家を出た。

「ごめーん、待った〜!?」
「あ、まーたん!」
待ち合わせ場所に彼が来たのは珍しく10分遅刻した時間だった。
まーたんというのはmasatoという、shinpeiのいとこでまた親友の青年のことだ。
真面目なしっかり者で、占いの信者だ。
「あれ、yujiも来たんだ?」
「うん、いいかな?」
この日、2人は久々にご飯でも食べに行こうかと少し前から計画していた。
yujiは、masatoの恋人だが、shinpeiの友達だったから、快くうなずく。
「あとさ・・・、今日は相談があるだよね・・・。」
「え、相談?僕達でよかったら、何でも相談のるよ!ね?」
「うん。」
優しい2人に笑顔で『有り難う』と言ったが、内心では苦笑していた。
(どうしよ・・・、相談があるなんて言ったけど・・・)
裏の路地のつきあたりにある店でもらった媚薬を、好きな人に飲ませる勇気がありません。
・・・なんて、言えるのだろうか。

masatoおすすめの洒落たレストランで3人、食事をとる。
話題はshinpeiの相談のことだった。
「へ〜!そんなロマンチックな薬があるの!」
ロマンチストのmasatoが目を輝かせる。
その隣りで、yujiは少しうつむいていた。
無関心なのだろう。
「うん・・・。甘過ぎでそんなに美味しくないよ。」
「甘いならいいんじゃない?」
「甘過ぎだから、飲ませるの大変なんだって・・・。」
「あぁ、そっか。」
ふと、masatoが鞄から雑誌を取り出す。
「じゃあ、ぺーさん占ってあげるね。」
「未だ占い好きなんだ・・・。」
彼の占い好きは幼い頃からで、よくshinpeiも占われていた。
「いいよ・・・。今度はどんなの?」
「今はね、BURUっていう占い師さんにハマってるんだ。TVとかも出るけど、知らない?」
「さぁ・・・。最近TV見ないし。」
「すっごくよく当たるんだよ!顔出しNGなんだけど・・・」
masatoは一度好きなことを話し出すと、止まらなくなる癖がある。
やんわりと話を留めて、内容を聞く。
「・・・で、何て?」
「えっと・・・うお座は、今は恋愛運がいいって。ラッキーアイテムは、路地裏、苺味、それと、コーヒーだって。」
「・・・・・・。」
キーワードの正確さに、shinpeiは呆れるように笑った。
「うーん、でもまぁコーヒーか・・・。」
「あ、うん!案外いいんじゃない?苦いしね。」
「そうねえ・・・。」
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