novel
□不完全Xmas eve
2ページ/3ページ
―
「Chiyuく〜ん! 早く早く!」
「わっちょっと待ってや〜っ!」
聖なる夜の前夜祭、2人は話題の駅前のイルミネーションを見に来ていた。
それは、shinpeiの長い入院生活の中でうまれた夢の一つだった。
「うっわ〜、綺麗・・・。」
人混みの中、1人でズンズン進んでいくshinpeiのあとを、Chiyuが必死でついていく。
やっと追いついて肩をつかんだ時、Chiyuは息を切らせていた。
「shinpeiさん・・・、足速いな。」
「そう?っていうか、イルミネーション超楽しい!」
瞳を輝かせて嬉々として言うshinpeiに、目を細めて微笑む。
「早くあっちも行ってみようよ!」
「ちょ、shinpeiさん!?」
また、1人で駆け出しそうになった彼の手を握った。
とっさに足止めをして、少年の顔を覗き込む。
「あのな、shinpeiさん、早く見たいのは充分分かるわ。でも、はぐれたらあかんやろ?」
「うん・・・。」
「せやから、手ェつないで行こな?」
キュッと力をこめると、彼の表情は比例して和らぐ。
『分かった』と、あどけない笑みでうなずいた。
「うん! ほな、行こか。」
「ねぇ、Chiyu君。俺、今年いい子にしてた?」
「え、うん。」
「よかった・・・。これで、サンタさん来てくれるね!」
少年の目がまた輝く。
Chiyuは何度もうなずいた。
「そうやな、絶対来てくれる!」
「でも、病院に持って行っちゃわないかな? 去年は病院だったから・・・。」
「大丈夫。サンタを信じるんや。」
2人は、イルミネーションを見ながら並んで歩く。
「shinpeiさん、明日は俺もshinpeiさんだけのサンタになるわ。」
「え? どういうこと?」
「俺な、shinpeiさんにプレゼント用意してあんねん。」
それを聞いて、パァ〜ッと顔を破顔させて笑う彼に、Chiyuもつられて笑った。
「でも、どうしよう! Chiyu君に何も準備してない!」
「俺はええよ。shinpeiさんが元気でいてくれるなら。」
「Chiyu君・・・。」
一瞬崩した笑みも、彼が取り戻してくれる。
彼はすでにサンタさんのようだ。
願いを叶えてくれて、そして笑顔にしてくれる。
「・・・来年もChiyu君と来たいな。」
「うん。せやから、元気でいてな?」
「勿論!!」
―
「っあー! 今一瞬映ったのってChiyu君とshinpei君だ!」
「マジかよ。イルミネーションなんて見に行ってるんだ。」
「ほら〜、shinpei君が今まで入院してたから、行きたいって言ったんじゃない?」
masatoは、キッチンで調理をしながら溜め息をつく。
(・・・別に、2人きりだから不満はないけど。)
「なぁ、これってMITSURUのバーじゃね?」
「え?」
夕方の情報番組のクリスマス限定メニュー特集、その第一弾として紹介されている店は、masatoの職場でもあって、2人共すぐ分かった。
「わ〜、ケーキ可愛いっ!」
「カップル限定だって。」
「僕らも、何かクリスマスっぽいこと、すればよかった〜・・・。」
「それにしても他の奴ら。クリスマス満喫してるな。」
yujiの感心したような言い方に、masatoは苦笑する。
彼は行事類には少しうといところがある。
別に気にしたことはないが。