番外編
□タチアオイの色香
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夏が始まりを告げる頃、
とある1人の男子高生に訪れた
1つの小さな幸せ
『っつーか、なんだかんだで結構喋ってるよな』
流は携帯の画面を確認してそう言った。
そこにはすでに通話時間が4時間を越えていることが記されている。
「ぅわ!こんなに!?」
黄瀬も流に言われてようやくそのことに気づいたようで驚愕の声をあげていた。
「流と話してると時間が経つのが早く感じるっス」
電話越しで声しか聞こえないが黄瀬が微笑っていることが流にはわかった。
『俺も涼太相手だとよくそう思うよ』
黄瀬の言葉に同意を示すと流もまた小さく笑ってみせた。
「本当なら今日は流と会えるはずだったのに…、」
しかし、先ほどとは一変して黄瀬の声はひどく残念そうな声色となった。
『それは…しょうがねぇだろ。俺も涼太も部活になっちまったんだから』
実は2人は久しぶりに遊ぶ約束をしていたのだが互いに急遽部活になり不可能となってしまったのだ。
「そうっスけどー…やっぱ会いたかったっス。ずっと楽しみにしてたのに…、」
それもそのはず。
お互い部活で忙しい上に黄瀬はモデル業もあるため休日が重なるなんて滅多にないのだ。
『…うん。俺も会いたい。
だからさ…、≪ピーンポーン≫
まるで図ったかのようなタイミングで黄瀬の家のチャイムが鳴った。
それは流の言葉を掻き消し、中断させるには充分すぎた。
「あっ…ごめん!誰か来たみたいっス。ちょっと待ってて!」
黄瀬が心なしか残念そうに、名残惜しそうにそう言うと電話口から足音が少し聞こえた。
おそらく黄瀬が玄関に向かっている足音だろう。
≪ガチャ≫
「はー…い?」
しかし、黄瀬は玄関の扉を開けた状態で目を見開き暫し固まった。
『だからさ、会いに来ちまった』
そこには先ほどまで電話していたはずの本来東京にいるはずの流の姿だった。
「え?ぁ、流?なんで…」
1日中部活だから会えないと言っていた相手がいれば誰だって混乱するだろう。
ひどく混乱する黄瀬を他所に時計の針が1つ、動いた。
≪カチッ≫
『涼太、誕生日おめでとう』
とびっきりの笑顔と共に告げられた言葉に黄瀬は驚き、手元の携帯に視線を落とした。
「ぁ…オレの誕生日、」
画面には6月18日(月) 00:00と表示されていた。
『俺が涼太に1番に言いたかったから。喜んでもらえた?』
悪戯っぽく笑う流を黄瀬は思いきり抱きしめた。
「当たり前っス。最高っスよ!あーもう本当流好き。
…絶対離さねぇスから」
『っおー…ありがと』
ぎゅっ、と抱きしめられて耳元で話された言葉は流の顔を赤く染めた。
タチアオイの色香
誰よりも早くキミに祝福を伝えたくて。
(『俺も、涼太のこと嫌いじゃねーよ』)
照れ隠しの言葉はキミには届かず霧散した。
2012.06.18.
Happy Birthday to Ryota.K
タチアオイ(ホリホック)
6月18日の誕生花
花言葉「単純な愛」「熱烈な恋」「率直」「野心」「大志」