番外編
□ままごと
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日本人はネーミングセンスがないと思う。
大抵の名前が物事そのまま名付けてあったり、語呂だったり。
例えば11月22日が「いい夫婦の日」と呼ばれるのもただの語呂。
なにか古くから伝わる特別な由縁があるわけじゃない。
そこまでわかっていてもそれに踊らされてしまうのは国民性だろうか。
『(嘘くせー笑顔)』
そんなことを黄色い彼が映るテレビを見ながら流はぼんやりと思った。
流と黄瀬は大学進学の際に2人でルームシェアを始めた。いわゆる同居生活だ。
しかし今、この家には流しかおらずテレビから流れる音だけが部屋を満たしていた。
高校を卒業し、本格的に芸能界に身を置いた黄瀬は前にもまして忙しくなった。
モデルに留まらずバラエティやドラマなどマルチに活動している。
それを嬉しく思う反面、寂しくもあった。
『遠いな…』
黄瀬本人から隣にいる事を望まれ、誰よりも近い場所にいる筈なのに。
有名になればなるほど今まで以上に彼を遠く感じてしまって。
少し前なら直に触れられた筈の彼に流は液晶越しに触れた。
1番最近で彼に会ったのは、触れたのは、一体いつだろうか。
そんなことも思いだせないくらいに彼等は会えていなかった。
携帯なんて忙しくてマメに連絡のとれない黄瀬相手では着信を知らせないことがより寂しさを生みだした。
それでも彼の重荷になりたくない流は決してそれを口にだすことはなかった。
『(寂しい。会いたい。触れたい。抱きしめたい。声が聴きたい)
……好きだよ、涼太』
本人には届かない苦しいほどの愛の言葉を紡ぐ。
ぐちゃぐちゃに混ざりあった感情を押し流すように流の頬を涙が伝った。
すべての思考を遮断するように流は目を閉じた。