宝物

□はにかみ王子
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「あ。」



突然向かい側に座っていた檜佐木くんが机に突っ伏すようにして眠ってしまった。その拍子に手に握られていた筆がコロコロと転がり落ちてあたしの足先にぶつかった。あたしはその結構使い込まれた筆を檜佐木くんの横に立てて、湯呑みと墨が倒れてしまわないようにを少し離れたところに置く。

ゆっくりと静かに上下する肩。書類整理の途中に眠ってしまうなんて珍しいな。きっと相当疲れているのかもしれない、面倒見が良いから今日も後輩たちの稽古に付き合ってそれから此処へ来たんだろう。体が冷えてしまわないように、あたしは膝掛けとして使っていたそれを肩からそうっと掛けてやる。

ピクリ、と少し指先が動いたけれど、大丈夫。


あたしはふう、と息を吐いてそれから自分の決められた席へと戻った。



あたしは三席で、檜佐木くんは副隊長だけど、あたしの方がずっと前から此処に居た。六車隊長と白副隊長が居た頃から。二人や、当時の三席や四席が居なくなって、しばらく其処は不在だったけれどいつの間にかあたしは三席に流れるようにして昇進して、いつの間にか檜佐木くんが副隊長を担うようになった。


「檜佐木くんが、六車隊長に、ねえ。」


檜佐木くんと初めて話したその時、真っ先にあたしに六車隊長のことを訊いてきた。彼はどんな人だったのか、が主に。どうしてそんなことを聞くのか訊いたら、確か、


「俺の憧れの人、なんです。」


って照れたように笑ってたっけ。あの笑顔であたしは檜佐木くんがどうして副隊長に選ばれたのか、学生の頃から将来有望視されていたのかわかったような気がした。だってすごく笑った顔が六車隊長に似てたんだもの。


「懐かしいなあ、」


思わず声が出て、あたしは書類に次々と判を押して筆を滑らせていく。それからずっと一緒に頑張ってきて、本当に強くなったし、十分すぎる程立派になった。そんな檜佐木くんにあたしが惹かれていくのも最早時間の問題で。思い出すとちょっと恥ずかしかったりする。


「すきです、かあ。」


確かそう言われたのも此処で一緒に作業してるときだったかな。突然檜佐木くん、音も立てないで横に居てさ。


「あたし、あの時自分が幻覚視えてるかと思ってびっくりしたんだから。」

パタン、とファイルを閉じて、新しいファイルを開く。この文字はきっと阿散井くんだ。相変わらず字が汚いなあ、


「でも、うん。」


嬉しかったな、すっごく。あたしにもまだこんな女の子な部分残ってたんだな、って気付かされたくらい、嬉しかった。今だから隣に居るのは当たり前って思ってしまうこともあるけれど。


「何か、あたしが此処に居る理由ってきっと檜佐木くんが居るからだと思うんだよね。…ってあたしすっごいこと言った!恥ずかし、」




「名無しさんさん。」



「…あ、」


パッ、とずっと下げて居た頭を上げれば檜佐木くんがじっとこちらを見つめている。


あたしは空いた口が塞がらない、何とも情けない表情を浮かべているに違いない。いつから起きてたの?と訊ねれば、此れ掛けてくれたときから、ってそれ所謂最初からってパターンだ。


「そ、そっか、うん。」

「墨、垂れてますよ。」

「わ、」


じんわりと広がる黒い染みを取る術をあたしは知らない。此れは六番隊の書類だから、必ず朽木隊長に静かに怒られるだろう。


「其れ、俺がサインしますよ。」


椅子を引いて立ち上がった檜佐木くんはあたしの隣に膝を付いて、それから筆を滑らせた。男の割りに字が綺麗、


「あ、ありがとう。」


パタン、ファイルを閉じた檜佐木くんは目を伏せたまま何も言わない。あたしは少し不安になってやっぱりあたしがサインし直すよ、檜佐木くんが朽木隊長に怒られるなんて耐えられないし、とその筋肉質な腕を掴んだ時、


「だーっ、もう、そういうんじゃなくて、名無しさんさん、」


檜佐木くんの手のひらから音を立ててファイルが落下したと思ったら背中にぐい、と腕が回って、






「すっげえ、すき。」






パッ、と離れてはにかんだように笑う。その背中に今度はあたしが腕を伸ばした。










(愛ってきっとこんなかんじ)



*相互記念!檜佐木さんってこんなんだったか果たして。雨走さま、すみません!これからもよろしくお願いします!


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