恋次
□まぎらわしい
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「桜子。」
彼の声に私はピクリと肩を震わせた。
私が所属する隊の副隊長である阿散井恋次はにこやかに笑いながら、私のすぐ横を通り過ぎた。
わかっている
彼が笑いかけているのは私ではない
桜子は机に視線を落とし、見つからないように唇を噛んだ。
「桜子、明日一緒に甘味屋いかねぇか?」
「いいんですか!!楽しみにしてます♪」
恋次が話し掛けたのは、同隊六席の佐藤桜子。
偶然、三席の私、小春乃桜子と同じ名前だった。
同じ名前で、同じ人を好きなのにこんなにも違う
彼女に向けられる副隊長の笑顔は決して私に向けられることが無いと、自覚するほどに彼女を妬む自分が嫌になった。
『阿散井副隊長、お楽しみのところすみませんが、お渡しした書類に目を通していただけましたか?』
「いや…小春乃、まだだ。」
嫌だと思うのに彼女との時間を邪魔する自分がいる。
ギクッとしながらとこちらを向いた彼が発した、自分を呼ぶ言葉に傷つくはめになるにも関わらず。
『提出期限は明日ですので、おはやめにお願いします。』
ニコリと笑う後ろで拳を静かに握りしめる、惨めだなと自分を笑いたくなった。
「わかったよ。」
スタスタと帰っていく副隊長の背中を見送り、桜子は机についた。
「すみません…小春乃三席…。」
『気にしないで…。』
シュンとしている彼女に、嫉妬しているのを見せないように、誰にもバレてしまわないように、ニコリと笑い、机で見えることのない膝の上で拳を再び握りしめた。