恋次

□演奏会の為に特訓しよう
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久々に楽器を吹く

今日だけでは、何回吹いても夏のような綺麗な音がでない。


夏のコンクールで引退してからは受験に忙しく、かれこれ三ヶ月も吹いていないから仕方がないのだが、相方だったホルンは中々想い通りの音を出してはくれない。

まずはマウスピースさえ綺麗に吹けていないのが問題だけれど


最近はオイルをさしていなかったせいかロータリーの動きが悪い。

オイルを射そうとマウスピースを本体から外して、クロスの上へとそっと置いた。


すると、同時にガラッと部屋の扉が開く。




「ちわっす。」





振り向くと、メトロノーム片手に真っ赤な髪の長身男が首から大きなサックスをぶら下げていた。





『あら、恋次じゃん。』





「お邪魔します」と頭を下げて入ってきた後輩に「どうぞどーぞ」と軽く返事をしてからロータリーへオイルをさす。

久々の楽器を今度は磨いてみたり緩くなったネジを閉めたりしていると、隣へ恋次が歩いてきた。





「桜子さん、冬の音楽祭は出てくれるんスか?」


『んー?無理むり…その日は卒業試験だから。』


「あぁ…なるほど。」





恋次の質問に私はフルフルと首を振った。

受験は終わって、進学する学校もきまったけど卒業試験を上手くスルーしなければ卒業できないのがウチの学校。

「山本校長も頭が固いな〜。」なんて、卒業生がぼやいていた意味が今ならわかる。





『だいたいこんなひっどい音じゃ出れないよ。』





マウスピースをつけて、唇を震わせて楽器に息を吹き込む。

でもやっぱり夏のような音はでなくて、尚且つ吹きづらい。

楽器本来の綺麗な透き通った音は、やっぱり日々の練習がなければ出ない。





「金管って大変っすねー。」


『木管も三ヶ月もしてなかったら吹けなくなるよ。』





他人事のように言う恋次に私は彼の顔を見上げて、フンと鼻を鳴らした。





「やっぱそうっすよね。」





恋次は苦笑し、そう言うと机のメトノームを動かし椅子にこしかけ、隣でロングトーンを始めた。








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