修兵

□その手を
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『変なの。』





マニキュアを塗った左手を見て私はクシャリと顔を歪めた。

綺麗なブルー、透き通るような青は私の大好きな色で、現世に行った同期の友達がお土産に買ってきた物だ。

ただ、そのマニキュアは私の指の爪にはあんまりにも不釣り合いだった。

特に、手の指は最悪。

刀を握りしめてたくさんタコや豆のできたゴツゴツした手、何度も怪我して剥がれた爪はお世辞にも綺麗とは言い難くて、キラキラ光るラメ入りの青が、なんだかいびつだった。

一日、マニキュアを塗ったまま出勤してみたけど報告書を触る度、手を洗う度、何度も視界をチラつくいびつな青が、買ってくれた奴に悪いけど段々嫌になってきた。





『やっぱり取ろう。』





お昼休みに、除光液を乱菊さんから借りて隊舎の縁側に座りながら歪んだ青を爪から拭う。

除光液の匂いがツンと鼻の奥をつっつく。



案外クサイな



右手がほぼ剥がし終わって、左手の爪に取り掛かろうと思う頃だ。





「なんだ、塗ったのにとっちまうのかよ?」

『檜佐木〜…そうね、似合わないから。』





土産をくれた、青を選んだ本人がいつのまにやら現れ、隣へと腰を下ろした。



手が綺麗じゃないから



そう言う私の手を見ながら彼は、そうでもないと首を傾げてくれた。



まったく世辞の上手い奴だ

あ、だからモテるのか






『足だけに塗っとく。』







せっかく貰ったからと、足袋を脱いで足に塗り始める。

彼はその様子を興味深げに隣から眺めていた。

















「やっぱ手にも塗っときゃよかったんじゃねーか?」



梓は青色よく似合うし



塗り終わった足の爪を見た後、そう言って彼は私の手を掴んでまじまじと手を見詰める。





『色が似合うとかの問題じゃないよ、アタシは手がさ…。』





水洗いでガサガサになって、刀を握って豆やタコができて、沢山怪我をして。

そんな私の手はお世辞にも綺麗とは言えないことは重々承知なのだ。





『他の女の子みたいに綺麗じゃないし。』





これ以上自分のみすぼらしい手を見られるのが段々嫌になって、私は手を隠そうと腕を引いた。





「んなことねぇよ。」

『…え。』





のだが、檜佐木がその手を力強く握ったまま離さなかった。

驚いた私はパッと彼の顔を見上げる、

檜佐木は、少しはにかむように小さく笑った。





「俺は好きだ、梓の手。毎日一生懸命頑張って何か護ってる手だ。」





そう言って彼は私の手に額を寄せる。

いつもと様子の違う彼に、私の頭はグルグルと変な回転を始める。



顔が熱い

触れている手に熱が集まる



「あったかい、優しい手だよ。梓。誰より綺麗だと俺は思うから。」

『え…あ…』





寄せられた唇に、もう顔は真っ赤になっていたに違いない。





「…梓。」





奴は最初からこれを狙っていたのか。

好きだと囁かれた頃にはコクリと頷いていた。













君の指を

僕の選んだ色に染めて








「嫌ってんなら俺が塗ってやる。」

『え、やっぱり塗らなきゃダメ?』

「そのために買ってきたんだよ。」








End.
 

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