修兵

□愛しています
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私は強いつもりだった。


人前で泣かないと決めて、もう何十年と月日は過ぎて、それから人前で泣くことはなくなったのに…


書類を落としたのにも関わらず、必死で自分の震える肩を抑えた。


怪我をしたって、いくら暴言を吐かれたって、絶対泣くもんかって…


彼氏にさえ涙を見せた事なんてなかった。





「…梓…?」





修兵の腕の中で、女がニヤリと私を嘲笑するのが見えた。

驚いている貴方の声なんて耳に入らない。


不安が現実になった


そんな事、仕事じゃ何回もあった。

その度私は堪えてきた、決して泣かなかった。

なのに、貴方の事になるとこんなに簡単に崩れる。

決意なんてなかったかのように、涙が溢れ出して止まらなかった。





『知って…た…、さ……な…ら!!』





最後に口にした強がりは、もう言葉になっていなかった。





「梓…梓ぁ!!」





背を向けて、瞬歩を使い無我夢中でその場から逃げた。


貴方の脱ぎ捨てた死覇装から、知らない香水の香りがしてた

同棲して三ヶ月

始めのうちはすぐ帰ってきてくれていたのに、仕事があるからと最近は朝だけ顔を合わせるくらいだった

それでも貴方を信じていた


否、それは現実から目を反らしているだけだったのかもしれない。


だけど、私を抱きしめてくれる温もりが、優しい顔が、キスが、私を好きでいてくれるのだと…


それが、嘘だったと目にするまでは貴方を信じていた。


知っていたのに、知らないフリをしていた





『…っ…』





歯を食いしばって走った。

誰にも見られないところへ、誰にも、誰にも…。





「梓ちゃん?どうしたの?」

『おばあ…ちゃん…うわぁああああ!!』





気づくと、私の足は生まれ育った流魂街の家に向いていた。

育ててくれた、祖母の顔を見た途端、涙が溢れ出した。





「久しぶりに帰ってきたと思ったら…大丈夫かい?」

『おばあ…ちゃん…ぁ…うぁあああ!!!』





子供をあやすように優しく頭を撫でくれる祖母の手に、涙が止まらくて、嗄れるほど声を上げて泣いた。









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