修兵
□君に選ばれたなら
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「梓…どうだったんだ?」
『あのね、ふられ…ちゃった。』
あぁ、その涙が
俺の為に流されたものなら
どんなにいいだろう
自転車小屋。
彼女は悔しそうに唇を噛み締めて、悔しそうに泣きながら笑っていた。
想いが届かない悔しさは、痛い程にわかる。
俺も君に届かぬ恋をしているから
君の一番が憎い
俺なら、絶対に泣かせたりしないのに
「…頑張ったな。」
俯いた頭に手を乗せると、ビクリと彼女の肩が震えた。
『…頑張ったけど、ダメだったよ。』
決壊した涙を、俺は止める術をもたない。
ポロポロと大きな瞳から沢山の雫が滴り落ちる。
君の想いの先にいるのがもし俺だったなら
絶対にそんな顔はさせはしない
ハンカチなんて物は持っていなくて、変わりにタオルを差し出した。
彼女はそれに顔を埋めて、声を殺して泣いている。
「泣くな…。」
静かに俺は彼女を引き寄せた。
彼女の体が一瞬強張ったが、やがて俺にもたれかかるようにして声を上げて泣きはじめた。
君に選ばれたなら
涙を止めてやるのに
今だけはと
腕に閉じ込めてしまうことしか
出来ないなんて
End.