修兵
□バレンタイン
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チョコレートの甘ったるい香りだけで、どっと疲れた気分になるのはきっと私くらいなものだ。
『渡しといてって…。』
自分で渡せばいいのに
大量に積み上げられたチョコレートを私が彼に渡す事を考えると、大きなため息が零れ出た。
檜佐木副隊長は忙しいから
そんな理由で私の所に預けられた大量のチョコレート達。
三席は副隊長のマネージャーじゃないっての!!
あーだこーだとブツブツ呟きながらも、綺麗にラッピングされたその中身が溶けてしまわないように、丁寧にダンボール箱に仕舞って涼しい場所に移動させている私は、とんでもなくお人よしだ。
初めてバレンタイに何かを渡そうと思ったのに、自分のことは結局後回し…
何回目かわからないため息をつく。
トン、トン、トン
『ん?』
ふと、近くで聞こえた足音に私は後ろを振り返った。
「何やってんだ?」
『あ、六車隊長。』
振り返ると、再び隊長に就任した六車隊長が部屋を覗き込んでいた。
割と小さな時から死神をしていた私は、隊長のことをよく知っている。
お互いに顔を知っているせいか、話をすることもしばしばだ。
「チョコレートか。」
『はい、檜佐木副隊長に…』
ダンボールの中のラッピングされた小箱達をジッと見つめる隊長。
「お前が全部やんのか?」
『なわけないじゃないですかっ!!…というか、私のは入ってません!!』
「冗談だ。」
ヘラリと言ってのけた隊長に、私はなんだか可笑しくなってクスリと小さく笑った。
「檜佐木はモテるんだな。」
『そうですねー、新人の時からですよ。』
新人の時は何事にも一生懸命で可愛かったのに、いつの間にか私を追い越して今じゃ私の名前もいっちょ前に呼び捨てするようになった。
身長もどんどん伸びて、女とはいえ170pとそこそこの身長のある私よりも随分大きくなった。
まったく生意気なものだ。
おまけにこんなに大量のチョコレートまで貰うようになった。
まわりもまわりで遠慮がないというか…。
私の気もしらないで
押し付けてくれちゃってさ…
『そうだ、隊長これ差し上げます。』
大量のチョコレートを再度チラッ見た私は、自分が作ったチョコレートを隊長にあげる事にした。
『ちょっと早いですけど、どうぞ。』
「あ?俺にか。」
『毎日お疲れ様です。』
すいません、隊長
修兵はきっとチョコレートばかりで困るだろうから、私のは食べちゃってください
心の中で謝りながら、ペコリと頭を下げる。
「ありがとな。」
『いえ。』
スタスタと去っていく隊長を見送りながら、修兵には何を渡そうかと頭の中で考えていた。
バレンタイン
私が誰かにあげるのは
今年が初めてだったりする