Main*novel

□鳥籠
1ページ/4ページ


「注射しますねー」


担当してくれる上原さんはいつも笑顔だ。

アイリはしかめっ面で診療台に横たわる。

今日は右腕に1本左腕に1本、
最後は右太ももで今日の注射は終わる。

小さい頃からやっているため慣れてはいるけど、いつまで経っても苦手だ。


「はい、終わりましたよー」


上原さんはにこにこしながら診療室からアイリを送り出す。

アイリはむすっとしたまま扉を閉めた。


「アイリー!」


診療室から出るとすぐにカヨが駆け寄ってきた。


「不機嫌だねー」


彼女に悪気はない。

これが彼女の素である。

そんなカヨにアイリは盛大にため息を吐き、不満をぶちまけた。


「なんでさぁ部活辞めたのに注射減らないの?もう嫌なんだけど!」


ここには500人ほどの生徒が生活していて、小さい子から大きい子まで能力別に学年が決まる。

アイリはカヨより3つ下だが、同じ学年で相部屋だった。


「しかたないよーアイリは身体系だし、私は頭脳系だもの。」


ただ同じ学年でも個人によってクラス分けされるので、カヨとは別のクラスだ。


「だってさぁ…」


3日前、アイリはテニス部を辞めていた。

強くなるために先生から勧められた注射がいつもより多くなったのと、
案外テニスはつまらなかったのだ。


「これでいくつ目?何でもできちゃうから、逆に大変だねぇ」


「んー10はいったかなぁ?次は何にしよう。」


「部活は必ず入んなきゃならないしね。アイリは何やりたいの?」


「格闘系は潰したから、球技系を潰してこう思う!」


「もう辞める気じゃん。」


笑いながらカヨはいつも許してくれる。

アイリはだからカヨが大好きだった。


「いいじゃん。それより今日の晩飯なんだろ。また強化メニューだけは勘弁。」


「アイリさ、つまんない?」


「え?」


いつもの表情で、何気ない会話。

でも、
毎日一緒に居るからこそ分かる雰囲気が、違った。


「…どうしたの?」


「んー今で満足してるのかってこと。もしさぁ、今と全然違う生活があったら面白いと思うんだ。」


「えと、今までのでなんも考えてこなかったからなぁ…どうなんだろ?」


戸惑いつつ、正直な気持ちを口にする。


「じゃあ、注射が無い生活とか?」


「ぁ、それいいかも!」


カヨは今までにないくらい、笑った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ