長編
□第二十五訓 女はばーさんになっても恋バナ好き
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がァンっ!
乱暴に扉が閉められると、また子は扉の前に立った。そして葉月を突き飛ばし、こう言い放った。
「どーいうことスか!」
「どういうって?」
疲労でくたくた。でも弱気な態度は敵に付け込まれるだけだ。
そんなあたしの態度にムッとしたが、ふと表情を変えた。
「……つーことは私のことも覚えてないんスか、アンタ。」
「ええ、なにひとつ。」
ふうっ…
また子は面倒だが名乗った。
「私は来島また子。鬼兵隊の幹部で拳銃使いっス。」
「鬼兵隊…!?」
攘夷戦争の時、銀さんや桂と共に戦ったという、あの、高杉!?
どうしてそんな人があたしなんかを…?
「驚いたッスねえ、ここのことも忘れちまったとは」
また子は苦笑して言う。
「…ここまできたら真相を教えてやる気も、そのバカ面に一発ブチ込むきも気も失せたっス。…ほら、止血したっスよ」
「あ、どうも…。」
こいつ、いつかのチャイナ娘みたいだ。
自分がどんな立場か、わかってんだろうな…。
…全く。晋助様との関係を問いただす気でいろいろ用意してたってのに無駄じゃないっスか。
晋助様も晋助様でアンタを必死に探していたようだし。
これじゃ私がバカみたいじゃないっスか…。
そんなことを考えていたら、今度はこの女から訊かれた。
「…ねえ、また子はここで女一人なの?」
「そうだけど」
そう答えるとこいつは、あはは、と笑って言った。
「じゃあ一緒かあ。あたしも女一人なのよ〜」
「そ…そうみたいっスね。」
また子は不思議な気持ちに駆られた。
攘夷という高杉の目的から逸れてまで、
今日まで晋助様が必死に探してきた女。
……憎むべき対象のはずだ。
自分たちの存在よりも彼の中を占めていたはずの女。
……すぐにこの二丁拳銃で撃つこともできるはずだ。
でも、なぜかそういう気にはならなかった。