長編
□第三十一訓 女は雨に濡れたい時もある
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「……オイ」
ほとんど何を言っても無反応だった沖田が反応した。
はっ!やっと気づいたか!
じゃあ、渡すか…チョコ…!
――――ところが、沖田の口から出たのは、予想もしない言葉。
「あんまり俺を怒らせんじゃねェ。…アンタ、誰のおかげでここにいられると思ってんですかィ?」
…え?
「な…!どうしたの急に?」
「あんまり調子乗るんじゃねーぜ、葉月。」
沖田の声色が違う。
目も、マジな感じ…。
でも!散々シカトしといてそりゃあ無いんじゃないの!?
あたしは声を荒げた。
「は?何で今更…んなこと何言ってんの?突然昔のことほじくり返してきたりして…わかんないんだけど…。」
「…黙れィ」
「大体総悟のおかげでも無かった気がするんだけど。近藤さんや土方さんがさ、」
「黙れっってんのがわかんねーのか!」
総悟は鼻で笑った。
「…まァ、そうですよねィ。大した実力もねェアンタは土方に色目使ったりしてなんとかここまでやってきたんですもんね。足手まといでも、皆言わねえだけでさァ」
「ちょっと待ってよ、土方さんとか関係ないでしょ?」
「隊士もねェ、陰では皆言ってるんでィ、…邪魔だって。」
「あ゛…?…もう一度言ってみろ!!!」
「何度でも言いやしょうか?…あ、それと。」
沖田は意地悪く笑った。
「…霧島は、アンタのせいで死んだ、とも」
「…!?」
葉月の脳裏には、今でも新鮮な記憶として残っている。
あの人の、最期の姿。
『先輩は先輩の剣で戦っててくれればいいです。僕は僕でやります。気にせず暴れまわってください。思いっきり、暴れてください!』
血に染まる霧島の胸。
あたしがあんなものあげなければ。
あたしがもっと強ければ。
沖田は「つまり、」と言葉を続けた。
「…アンタは『斬らないで』戦ってきたつもりかもしんねーが、やったことは人斬りと変わりゃあしねーんだよ。…しかも、俺よりタチの悪ィ…な」
大粒の涙で視界がぼやける。
耐えきれなくなり、部屋を飛び出した。