長編
□第三十一訓 女は雨に濡れたい時もある
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外は土砂降りの雨だった。
傘なんてもちろん持っていない。
髪も隊服もびしょびしょ。
気がついたらずいぶんと遠くまで歩いてきていた。
『まよい橋』
あたしは橋の欄干にもたれかかる。
うつむいたあたしは、今一番見たくないものが目に入った。
橋につけられた、傷の落書き。
アイマスクのイラストは、あたしが描いた。
その隣には、「土方コノヤロー」の文字……。
見回りの最中、暇だ暇だと2人でここへやってきた際に、落ちていた石ころでつけた傷だ。
「…公共のものに落書きする公務員てどうよ?」
「いいじゃねーか、誰も気付きやしねーよ」
「知らないよ〜?あとで苦情来ても」
「まあ、いざとなりゃ全部葉月のせいにするんで心配御無用でィ」
「へ〜…そりゃいいね^^?」
あたしは傷を人差し指でなぞった。
これまで数え切れないほど喧嘩した。
原因はいつも総悟で。
ときにはバズーカが出動するくらいの騒ぎで。
最終的に謝るのはいっつもあたし。
…それは、許す気になれたから。
あやまってちゃっちゃと済ませちゃおう、と思えるくらいだったから。
でも
今回、
初めて、
許せなかった。
総悟の言ってることが100%バカなことだとは思えなかったのも、ある。
当たってる…30%くらいは。
でも初めて
総悟を斬りたいと思った。
心の底から、憎んだ。