長編
□第三十一訓 女は雨に濡れたい時もある
5ページ/5ページ
「あーあ、せっかく会えたのに泣いてる最中とはね、ついてないや」
傘をくるくるっと回す。
水滴が飛び散る。
「さて、行ってくるか。あとは…頼んだよ。
…阿武兎?」
****
誰かが背後に立ち、あたしの上に傘をかざしてくれた。
(親切な人もいるんだね…でも今はお礼言えるような余裕ないや…。)
あたしが顔をあげると、傘の持ち主はにこにこと笑っている。
「…どうも…」
前にどこかで会ったような気がした。
「いいんだよ。…でさ、君、今暇?」
「…暇に見えますか。」
泣き顔のあたしに何を言うんだ。
「泣きたいときは、気分を変えるのが一番だよ。行こ?…ちょっと歩こうよ」
あたしは黙ってその人についていった。
…。この感じ。
前にもこんな気持ちの時に、この人…。
「そうそう、前にもこんな感じだったよね、君」
あたしの心を読んでいるかのようだ。
「…俺は神威。…妹を知ってるんじゃないかい?」
「妹さん…」
「そう。『カグラ』って言うんだけど」
「神楽ちゃん!?…あなた…」
「そうそう。…ま、もう関係ないんだけどね」
神楽ちゃんとは何度も遊んだけど、一言も兄がいるなんて言ってなかった。
…っ!?
「あの…神威さん」
「呼び捨てでいいって」
「神威…。あの…」
神威は葉月を傘に入れているが、腕を葉月の腰に回している。
う////
これじゃまるで…
恋人みたいじゃん…!
「えー?駄目?俺、君みたいなこと一回デートしてみたかったんだよ。」
「恥ずかしいんですけど…会ったの2回目なのに…」
「沖田にもされたことないから??」
……!?
今、
何て…?
「あ。」
神威はあちゃー…という表情をした。
「ちょっとおしゃべりしすぎたかな。いい加減このくらいにしておかないと面倒なことになるんだよね。」
「ちょっと神威!?沖田を…総悟を知ってるの!?」
神威は答えず、葉月の頭を撫でた。
小さい子を相手するみたいに。
「デートはオシマイ…か。ほら、あそこの人、ビームでも出しそうな目で俺達見てるじゃん?」
神威の視線をたどると…。
「た…高杉……!?」
「しつれーい。」
――――――そこから視界が真っ暗になった。