長編
□第三十六訓 傷と絆
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「待って」
ゆっくりと振り返った。
「…俺に何か用か?」
「高杉…あなたに言い忘れたことがあって」
「お前が…か?…ククッ…なんだァ?」
可笑しそうに笑う高杉に
あたしは深呼吸して、言った。
「あたしを……ずっと好きでいてくれて、ありがとう」
高杉の目がすうっと細くなった。
「お兄ちゃんを斬ったのも、あたしをここまで追ってきたのも、あたしを想ってくれたからなんでしょ?」
「…何のつもりだァ?お前」
高杉は怪訝な顔をした。
「ありがとう…て言いたかったの」
確かに酷い目に遭わされた。
大切な人を斬られた。
それでも…
心から高杉を憎む気になれなかったのだ。
「あたしは明日から、またあなた達を追わないといけない。仕事の都合上…。だから、今日のうちに言っておきたかったの」
「…。」
高杉はしばらく黙った後、
ゆっくりと葉月に歩み寄り
強引に抱き寄せた。
「……手放したくねェ。手放してなんかやらねェよ…俺ァ」
葉月は、微笑みかけた。
「ありがとう…。でも、あたしには帰る場所があるから…」
葉月は、ゆっくりと高杉に歩みよる。
「だからね…だから…最後に…」
葉月は、高杉の頬に
小さくキスをした――――。