長編
□第二十二訓 見なかったことにしてあげるのも優しさ
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「御用改めである!!真選組だ!!」
今日も真選組は浪士の検挙に忙しい。
会合場所となっていた料亭に、彼女の声が響く。
あたしがここにきて、もうどれだけ経つのだろう。
今では水沢葉月の名は、攘夷派ならだれでも知っているほど。
「まずい!アイツもいるのか!」
「土方に沖田に水沢…こりゃヘタに迎え撃つより逃げたほうがいい。急げ!」
***
「土方さん、お疲れ様です。」
「水沢、そっちは片付いたのか?」
「はい。」
「相変わらず…峰打ちなのか?」
近藤さんが訊く。
あたしは迷わずはい、と答えた。
ビックリな話だが、いまだにあたしは人を斬ったことがない。
その代わり、誰よりも確実な剣術を身につけるつもりで、総悟にもよく稽古をつけてもらっている。
「そうか…無茶すんなよ」
「大丈夫です。それより…総悟は?」
(「総悟」…か。)
土方はそれに反応してしまう。
…自分の中ではくだらないとわかっているのだが。
「…総悟なら…向こうで残党を片づけてたところだろ」
「へーい、今戻りやした。」
頬に返り血をつけた沖田が戻ってくる。
「全部片付いたの?」
「いや、まだ斬らなきゃならねーのが残ってやすが。」
そう言って斬りかかる沖田と当然のようにかわす土方。
…慣れってこわいねえ。
「さて、帰るぞ!…お前らにはこれからもう一仕事あるからな!」
「…近藤さん?どーいうことだ?」