長編
□第二十八訓 失って得るものもある
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その日は、皆で稽古をした。
疲れ気味だった人も、自然と笑顔になっていたような気がする。
そうか、皆の原点はここなんだな。
田舎のおんぼろ道場で。いつしか大きく、強くなってたんだなあ…。
そのころの皆を、あたしは知らないけれど。
そういえば、あたしはそのころ、どんな人生を送っていたんだろう…?
***
「お疲れ様です!沖田隊長!」
「ん?んだよ霧島かィ」
沖田は縁側に寝っころがっていたが、霧島の声で体を起こし、アイマスクをくい、とあげた。
「何か用?」
「あの、単刀直入で悪いんですが…」
沖田は話半分に聞きながら、ファ●タの缶を開けた。ちなみにグレープ。
「あの…沖田隊長は…
――――――水沢先輩とキス、したことありますか。」
ブフッ
「ゲホッゲホッ…!!…いきなりすぎだろィ!なに抜かしてんだてめーは!」
「ごごごごめんなさい!でもお二人って…付き合ってるんですよね?」
廊下とはいえ霧島の声は響く。
「…まだ続けるようなら鼻から飲ませるぞオイ」
「いや!ちがうんです!…僕…うらやましいんですよ、沖田隊長が。強くて、かっこよくて、可愛い彼女もいて、それを守るために戦っている…隊長が」
「誉めてるつもりかもしれねえが、あいにく何も出ませんぜィ?」
「素直に、本当にそう思ったんです!」
……。
そこまで言われちゃあ悪い気はしない沖田。
照れ隠しなのか、
「いいだろィ?でもやらねーよ」と言ってファ●タを一口飲んだ。
「ええ…残念です…僕も…
水沢先輩が好きだから。」
沖田は驚いたような顔をした。
でもすぐにニヤリと笑い、
「オメーにはあのバカの調教は無理な話だァ。ありゃあ人間と言うか動物なんで。」
「あははは…酷いなあ、相変わらず…」
沖田は立ち上がり、缶を霧島の隣に置いた。
「まあ」
「お前がちょっとはマシに戦えるようになったら…一手、合わせてやらなくもねーんで。」
沖田は刀から伸びたイヤホンを耳にさすと、そのままどこかへ行ってしまった。
「沖田…隊長…」
霧島は心があったかくなるのを感じた。
しかし気付く。それはつかの間のことだと。
「…これ、空なんですけど…」