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□ゴッドファザー
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「俺、大学やめるかもしんねー」

ドライブ先のホテルで、啓輔は唐突に切り出した。

ブラウン管では白い尻を剥き出しにした長い髪の女が腰を振っていて、やる気のない安っぽい嬌声が邪魔だったので、枕元のスイッチでトーンを落とした。

「え? 聞こえない」
「だからあ、俺、大学やめるかも」
「ふうん」

啓輔は、理由訊かないのかよ、と呟いた。

やはり訊いてあげなきゃいけないらしい。

「どうして」
「カノジョがさー…デキたみたいで」
「あ、そう」

あたしは啓輔の右手から煙草を取り上げて、吸った。

ああ、こんな軽いもので満足できるのかしら、と思った。

「女が、あんまり吸うなよ」
「何で」
「よくないだろ」

あたしの健康を気遣ってくれているのなら、はなから隣での喫煙は遠慮していただきたいものだ。

啓輔は拗ねたような顔をした。

「反応薄いなー」
「そう?」
「淡泊だよお前」

あたしたちの関係ほどではないでしょう。

「まだ、産婦人科行ってねえらしいから、詳しく検査はしてないんだけどさー。まあ心当たりは充分にあるし、だから」

じわり、と口の中に広がり染みたのは、アルコールの味のようだった。

この煙草、甘い―?

「別れよう」
「何で、だって付き合ってるわけじゃ」

言った途端、灰と火の粉が布団に落ちて、焦げた。

あたしはまた、柔らかいアーモンド臭を求めて、ゴッドファザーを呷る気になるのだろうか。
〈END〉
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