sideB

□A
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日本人の血液型で一番多いのはA型だと聞くので、そこからしても私は標準なんだろう。

身長は一五七センチ、髪は茶色、ある私立大学の文学部に在籍しており、ほんの数ヵ月前に二十歳を迎え、バイト先の先輩であるカレシに処女膜を破られた。

普通すぎてどうしようもないくらいだ。

なので、ちょっと冒険してみることにした。

ある日、ヒッチハイクで映画館まで行くことにした。

バス通りに出て、親指を立てじっと待つ。

車はなかなか停まらない。

何だろう、と凝視してくるドライバーは多いけれど、皆通り過ぎていく。

腕が疲れてきた頃に、一台の軽トラックが停まってくれた。

「どこまで?」

首からタオルをかけたおじさんが、訊いた。

「ええと、映画館まで」
「どこの」
「どこでもいいです」
「いいよ、乗んな」

気軽なものだ。

私は助手席に座り、ドアを閉め、シートベルトを締めた。

足元には雑誌や新聞などが転がり、ステレオからは演歌が鳴り、目の前には成田山のお守りがゆらゆらと揺れていた。

このままどこか遠くに連れていかれちゃうかもしれないな、襲われちゃうかもしれないな。

そうしたら頑張ってここから脱出して、近くの民家に逃げ込もう。

私が色々と想像をめぐらせている間、おじさんはハンドルを切りながらカラオケに夢中だった。

軽トラックは見慣れない道を走っていったが、やがて何度か足を運んだことのある小さな映画館の裏手に停まった。

「ほい、着いた。ここでいいか」
「どうも、ありがとうございました」
「じゃ、あんた、ほっぺにちゅーしてくれ」

おじさんは私に汗臭い顔を近付けた。

「…それは、その」
「ほっぺにちゅーくらいはいいだろう。スマップだって、ほっぺにちゅーをさせてるだろう」
「ああ、ビストロスマップで」
「俺だってナウいんだぞ。スマップくらい知っとる」

ナウいとか言われても困るが、怒らせて乱暴されるのはもっと困るので、えい、と勢いをつけておじさんの煤けたほっぺにちゅーをして、私は軽トラックを降りた。
〈END〉

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