sideB
□ゴッドファザー
1ページ/2ページ
友達よりは濃密で恋人よりはあっさりとした雰囲気でよくつるんでいるので、傍から見ればいいカップルなのだろう。
でもあたしと啓輔は、付き合っているわけではない。
啓輔には二歳年下の可愛い彼女がいるし、当初、あたしには彼氏がいた。
あたしと啓輔はサークル仲間で、大勢で飲みに行く時にしか会話を交わさない、お互い目を合わせることもしない、そんな仲だった。
何より、啓輔の名前―それも姓の方―を知ったのは、関係を持った後だ。
これをカップルというのなら、随分と手順をすっ飛ばした異例だろう。
その日は、あたしの彼氏が転勤を機に「もう別れようか」と言ったので、まがりなりにも三年近く付き合ったのだから、失恋の感傷にでも浸ってみようかしらと思い立ち、いつものショットバーでゴッドファザーを間髪入れずに数杯呷ったのだ。
当然そんな記憶はなくて、たまたま店の奥にいた啓輔が後に聞かせてくれた。
気が付いたら店の裏にあるアパートの一室、啓輔の部屋にいた。
啓輔が水を持ってきてくれたので、口移しで飲ませてもらった。
「…酒臭えよ」
「ブラのホック、外して」
瞼を開けることさえ億劫だったので、そのまま動くつもりはなかった。
「やらしてくれんの?」
「勝手にすれば」
「…何で」
さあ?と答えるのも面倒なので、黙っておいた。
明け方、啓輔はあたしの耳元で、そういえば名前、と言った。
その声は寝不足と疲労でかすれていて、ああこのひとも人間なんだな、と妙に悟った。
あたしたちは裸のままで場違いに真面目な自己紹介をし合った。
あたしは啓輔の家族のことなんて知らないし、幼い頃の話も、講義の内容だって持ち出したことはない。
話題はいつも進行形で、テレビを観ながらこのキャスターってさあ、とか、雑誌を読みながらもう春物出てるね、とか。
啓輔とあたしには今という時間しか流れていなくて、それが心地良い、のかどうかはわからない。
啓輔とはよく会うけれど会う回数は増えないし、年下の彼女の写真は啓輔の部屋に、確実に増えている。
お互い、何かの核心に触れるのを避けているようだ。
しかし、これだけははっきりと言える。
あたしは彼の体温を膣の奥深くまで感じるのが、嫌いじゃない。