sideB

□女性用トイレ前
1ページ/1ページ


ママー、ママーと泣き叫ぶ娘を抱っこしてスーパーの女性用トイレの前で、所在なさげに佇む俺。遅えよ奥さん! ウンコしてんのか化粧してんのか、どっちにしろ早く切り上げて戻ってきてくれ。
娘、意外に重い。
あとうるさい。黙らない。背中を優しくぽんぽんしてやってんのに一向に落ち着きやがんない。

発泡酒を一ケースと大量の食料品をカートに満載した親子連れが、俺の前を通り過ぎた。あちらも奥さんがトイレに行くそう。
カートとウルトラマンのソフビを握りしめた二歳くらいの息子を旦那に預けて、奥さんはケータイでメールを打ちながら女性用トイレに消えた。
途端に泣きだす息子。抱き上げる父親。泣き止まない息子。無駄だと知りながら優しく背中をぽんぽんする父親。

あちらの父親と、はた、と目が合った。ちょっとだけ会釈をした。
お互い大変っすよね。自分の子なのに、全然懐かなくて。

ようやく俺の奥さんが戻ってきた。娘は奥さんにおんぶされ「うっさいなー、もー」と叱られて、ようやく黙った。

床に置いてた買い物袋を持って、奥さんのあとについて歩きだす。
奥さんの背中にひっしとしがみついた娘からは、もう笑い声が聞こえる。
あちらの息子は相変わらずママーと絶叫している。

もう少しの辛抱ですぜ、旦那。
〈END〉

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ