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□その少女、少年につきマネージャー
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大前提として、首輪をはめられたあたしにも人権はあると考えるべきだ。

無理なことには無理と言い、嫌なことは断ることができる。
そんな人権を法で保護してくれている日本とは素晴らしい国だと今なら感じる。

だが、今のあたしに人権は存在しない。
何故なら、あたしの首から繋がる紐の先を掴んでいるのは紛れもない跡部であり、そうである以上あたしの中では跡部が法律だからである。
跡部がやれと言うならば、出来ないなどと言えるはずもなく、跡部が無言で指し示そうものなら、嫌だなどと断る術など持ち合わせていないのだ。
つまり、大前提から覆されている以上抵抗は出来ない。
それは全て跡部が握っているあたしの弱みのせいに他ならない。

女装が弱み?馬鹿を言うな。
あたしは女なのだから、女装に何も引け目を感じていない。
弱みとするならばそれは、跡部が3Bの状況を校長に報告することによる女生徒の制服を剥奪されることだ。

何が悲しくて男の格好なんて。
だからこそ、こうして跡部の言いなりになるしか選択肢はないのだ。

「早咲、ドリンク。」

言いながら差し出す右手に、少々雑にドリンクボトルを手渡した。

跡部と対峙した次の日に伝えられた仕事。
それは、跡部が部長を務める男子テニス部のマネージャーもどきだった。

なぜもどきがつくのか問われれば、簡単なことだ。
あたしにやる気がないから。
指示されたことしかやらず、それ以外は動くことをしない。
全国大会優勝?知ったこっちゃない。
むしろ、早く何処かで負けてしまった方が跡部が引退するのが早まっていいと思う。
最低だと思うやつもいるだろう。構わない。
実際最低な事だと自覚はしている。
それでも考えを改める気はさらさらない。
そんなあたしを最低だと罵る事が出来るのは、多分その影響を直に受けている男子テニス部の部員だけだ。
それ以外が罵倒するなら、こちらも反論してやろう。
だが、それが男子テニス部ならば、あたしは。

くっと跡部から返された空のボトルを握る手に力を入れると、前よりも簡単にそれはへこみをつくる。
あぁ、遣る瀬無い。
どうして世界はこんなにもあたしを否定するのか。

違うな。

何故、あたしのメンタルがこんなにも弱いのか、だ。

「早咲、球拾い。」

「・・・・・・ッあ。・・・は、い。」

しばらく喉を使っていなかったからか一瞬言葉が喉に詰まって、それでも口から零れたのは服従を示す言葉だった。






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