U

□43
2ページ/2ページ


side Kiyosumi

ふらりと駅前を通ったとき、ふと声が聞こえた。
その声の持ち主は、まぁ、所謂ナンパというやつで、俺も周りから見るとああ見えるのかと顔を顰める。

ナンパされている子は、ぱっと見普通の子。
言ってしまえば、ナンパするなら何もその子を狙わなくても、とさえ思えてしまうような子だった。

ちらちらと時計を見やるその姿は、困っている事が明白で、ナンパに慣れていないことも明らかだ。
可哀想に、と思いながらもその場を立ち去ろうと足を運ぶ。
周りの人も助けようなんてしない。
面倒なことには関わらないのが、一番だ。

ただ、その子は無視を決め込むという間違った選択をしてしまう。
それでは相手を逆上させるだけなのに。

そこまで考えて、なんで俺が彼女を気にするのか、と首を傾げる。
この駅前には、その子よりも可愛い子なんて一杯いるのにその子が一番目を引いた。
今、ナンパしてるやつもそうなのだろうか。

「うーん、今日は占い良くなかったからなぁ・・・」

誰に言うでもなく呟いて彼女へと近づく。
分からないなら、近付いてしまえばいいと、そんな安直な考えからの行動だ。

この子からしたら、ナンパ男が入れ替わっただけなのだろうけど、多分さっきの奴らよりはマシだろう。
少なくとも俺は疑問を解消しに来ただけなのだから。

思った通りに、目の前の子がため息をつくものだから思わず、笑った。

「ね、キミの名前は?」

何となしに、俺の笑顔がいつものだらしないものじゃないような気がして誤魔化すように言葉を続ける。

「早咲夢羽。ね、千石、なんで助けたの?面倒事は嫌いそうなのに。」

思わず、息を呑んだ。

俺の名前を知っていたことにじゃない。
俺の性格をピンポイントでついてきたにだ。
そんなこと、言われた事がなかった。
言われるのは、むしろ、反対の言葉。

あぁ、そうか。

なんでこの子が、夢羽ちゃんが、目を引くのか。
それは。

「夢羽ちゃんは、可愛いね。俺ラッキーだよ!」

この子は、可愛い。
子どもで大人だからこそ、不安定で可愛い。
だから、目を引く。

俺は夢羽ちゃんの隣に腰掛けて、他愛もない話をする。
それが、なんだか一番正しい気がした。
きっと、今日は他の子をナンパしようとこの子のことが頭から離れないだろうから。

暫くして、待ち合わせの相手が見えたと、夢羽ちゃんが腰を浮かせる。
それに合わせて俺は口を開いた。

「ね、俺のこと名前で呼んでよ。夢羽ちゃん!」

急にだったからか、彼女はふっと噴き出す。
それから、綺麗な笑みを浮かべた。

「またね、きよ。」

彼女はヒラリと手を振って駆けて行く。
俺は1人ベンチに腰掛けたまま、空を仰いだ。
本当は、名前で呼んでと言うつもりじゃなかったのだ。

本当はさ。

「っ、また会いたい・・・っ!」

って、そう言いたかった。














前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ