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side yuta

「会わせたい子が居るんだ。」

渋々ながらも帰ってきた実家。
玄関に足を伸ばした瞬間に兄貴に言われた言葉。
思わず、は?と間抜けな言葉が零れた。
おかえりも、鬱陶しいほど甘い声で呼ぶ俺の名前も差し置いて、何処か誰かを慈しむような声色で。

会わせたい子が居る、と。

そしてそのまま外に出るよう促される。
帰ってきたばかりの俺に、兄貴がこんな風に振る舞うのは珍しくて、興味はあった。

同じ東京で、聖ルドルフと青学は別に遠くはないから疲れも特にはない。
普段の兄貴が過保護なだけだ。
だから素直について行った。

駅へと足を進める兄貴のそれは、心なしか歩幅が広くて、そんなに凄いテニスプレーヤーなのかと期待していたのに。
目の前で兄貴をからかうようににやりと笑むそいつは、ただの女子。

可愛いだとか、綺麗だとかそんな言葉がまるで似合わない。
だけどどこか愛くるしいような、そんな女子。

パチリとした目は確かに、人から羨まれるだろけど、他は。
白い肌にぷにっとした頬、丸い顔の中心には低い鼻。
別に不細工な顔ではない。でも、整ってもいない。
にやりと怪しく口角を上げる姿からは、特別性格がいいなんてこともなさそうだ。

だけど、その女子を見つめる兄貴の目はどこかで見たことがあって、困る。

(どこだ・・・?)

どこか、身近で、でも、ちょっと遠いような、そんな人の目だった気がする。

思わずじっと二人を見た。
すると女子がゆっくり瞬きを繰り返したのち、俺を見るものだからびくりと肩が震える。

そいつの髪と、同じ色。
その目には覚えがある。

これは兄貴の方とは違ってすぐに思い出せた。

(俺と、同じ目。)

あぁ此奴も“妹”なのかと思うと、不思議と今までの疑問も消えた気がした。

兄貴は、きっと此奴が“妹”だから会わせたいと言ったんだろう。
俺と、同じだから。

目の前の女子は、口角を上げた。
さっきとは違う。
ニッと潔いほどに。
多分、観月さんが見たらはしたないとたしなめるだろう、そんな笑み。

細められた目からは、ギラギラと意思が見え隠れしていて、あぁそんなにも似てるのかと、少し呆れた。

「氷帝学園男子テニス部マネージャー早咲夢羽。よろしくっ!」

トクトクと早咲の瞬きに合わせて、俺の心臓が主張する。

可愛いだとか、綺麗だとかそんな言葉がまるで似合わない。
だけど、此奴の何処か甘い魅力が、握手として組まれた手から入り込んでくるような気がした。













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